1 :
◆cgcCmk1QIM 22/08/08(月) 16:21:11 ID:
Kx9i
夏休みが始まり、斉藤洋子の発案で女子寮で暮らすアイドル向けにラジオ体操を始めることになった。
女子寮前の駐車場で朝食前にラジオをかけて、任意参加でラジオ体操第1第2をやるのである。
アイドルといえば忙しい身、夏はビールがおいしいのよねと深酒して朝寝を決め込む悪い大人もいる。乗り気でないものも多い中、ひとり岡崎泰葉は大変に乗り気であった。
「カードくれるんですよね? スタンプ押してくれるんですよね? 本当に?」
開始前からそわそわと、スタンプカードを待ちきれない有様である。
2 :
◆cgcCmk1QIM 22/08/08(月) 16:21:46 ID:
Kx9i
「泰葉ちゃんがそんなに楽しみにしてくれると思わなかったよ」
「だって、ちゃんと押せたことなかったから」
微笑ましいものを見る目で洋子に見られ、泰葉は唇をとがらせる。
「カードは毎年もらってたけど、芸能界って夏休み忙しいですからね。スタンプ1つも押せなくて」
小学校時代、ほとんど白紙のままだったスタンプカードを思い出して泰葉は笑う。
「だからラジオ体操に参加してスタンプを集めるのって、憧れがあるんですよ――変ですよね、別に集めたって何があるわけじゃないのに」
3 :
◆cgcCmk1QIM 22/08/08(月) 16:22:04 ID:
Kx9i
「あれ、泰葉ちゃんは知らないの?」
洋子がキョトンとした顔をする。
「スタンプカードを全部埋めたら、ちゃんといいことがあるんだよ」
「えっ」
思ってもいなかったことを言われて目を丸くする泰葉。なんせ今まで集めきったことがないのでそんなこと知らなかった。
「全部集めたら、何が起こるんですか?」
「それは秘密。自分で確かめてみなよ」
4 :
◆cgcCmk1QIM 22/08/08(月) 16:22:24 ID:
Kx9i
かくして岡崎泰葉のラジオ体操チャレンジが始まった。友達の松尾千鶴やGBNSのメンツを巻き込んで、初日から期待に瞳を輝かせて駐車場に1番乗り。元気な小学生もかくやと言う気合の入りぶりである。
「あれっ」
そして待望のスタンプカードを受け取って、泰葉は首を傾げた。スタンプカードが妙なのである。
日付の配置がバラバラだしスタンプ欄の形も泰葉が知っているような整然とマス目が並んだやつではない。よくわからないふわふわした感じである。
しかも押されたスタンプもなんか変な形だ。
「何なんですか、これ」
首をかしげる泰葉。
「何かは完成してのお楽しみ」
笑う洋子。
5 :
◆cgcCmk1QIM 22/08/08(月) 16:23:03 ID:
Kx9i
それから押されるスタンプは、毎日違う形をしていた。
どうやら全部のスタンプを押すと何かの形が出来上がるらしい、とわかってきたのは10日目くらいのことである。
「何が出来上がるんだろう」
「動物じゃないかな」
ラジオ体操の後、みんなで朝ごはんをとりながらスタンプカードを囲んで推理する。しかしスタンプの形と日付の配置がすごくよく考えられていて、15日目位になっても何が出来上がるのかわからない。
泰葉は仕事の合間、時々スタンプカードを取り出して考えた。洋子さんが言った『いいこと』ってなんだろう。このスタンプカードの絵が完成することか。それとも他に何かあるんだろうか。
16歳にもなって….…と思わないでもないが気になるものは気になる。泰葉は絵の完成を楽しみに体操に通う。
6 :
◆cgcCmk1QIM 22/08/08(月) 16:23:30 ID:
Kx9i
「あっ」
絵の全貌が見えてきたのは大体20日目のことだった。
「子犬。これ子犬さんですね」
ころりとした愛くるしい犬の輪郭が出現した。そこからは毎日、可愛らしい鼻、小さく出た舌、丸い瞳と犬の可愛らしい表情が出来上がってゆく。
そして8月31日朝、画竜点睛とばかりに右の瞳がスタンプされ、可愛い子犬が完成した。わあ、と年少アイドルたちに混じって歓声をあげる泰葉。なるほどこれはかわいい。毎日がんばって出てきた絵画あると言うものだ。
7 :
◆cgcCmk1QIM 22/08/08(月) 16:24:59 ID:
Kx9i
「はいみんな集まってー」
洋子さんが皆勤賞の子たちを集める。
「ラジオ体操皆勤賞おめでとう。これ、賞品ね」
皆勤賞のみんなに、大判の自由帳が配られる。泰葉はその表紙を見て目を丸くした。表紙ではあのスタンプと同じ可愛らしい子犬が愛くるしい姿でこちらを見ているのだ。
これはなかなか楽しい趣向だ。スタンプの子犬と自由帳の子犬。かわいい2匹の子犬を手に入れて泰葉はご満悦。これは絶対大事に取っておこうと心に決めていた。
もしかして洋子さんは、スタンプを集めたことがない自分のためにこんな趣向を用意したのだろうか。それが「いいこと」なのだろうか。それとも皆勤賞でノートがもらえることそれ自体? 正解を確認したいけどそれを聞くのも野暮だと言う気がした。
8 :
◆cgcCmk1QIM 22/08/08(月) 16:25:45 ID:
Kx9i
「あれ、みんなどうしたんだそのノート」
朝、珍しく寮にご飯を食べに来たプロデューサーさんが、皆の下げたノートを見て首をかしげる。
「ラジオ体操の皆勤賞なんですよ」
スタンプカードを見せて説明する泰葉。
「懐かしいな」
話を聞いてプロデューサーが笑った。
「俺の時も皆勤賞は自由帳だったよ。クワガタの写真が表紙だったな」
「ナナの時は図書券でしたねえ」
安部菜々がうっかり懐かしいですねと墓穴を掘る。
9 :
◆cgcCmk1QIM 22/08/08(月) 16:26:14 ID:
Kx9i
ノートをきっかけに、意外な位たくさんの人と話が盛り上がった。
ラジオ体操の思い出を持ってる人は、泰葉が思ったより多かったのだ。
「プロデューサーさんも皆勤賞だったんですか?」
「うん。3年連続皆勤賞で、表彰もしてもらったよ」
皆勤賞の話をきっかけに、泰葉はプロデューサーや、親しい人たちの今まで知らなかった夏の思い出を聞くことができた。
自分の思い出でも話すことができた。
スタンプカードを集めて起きる良い事は、これだったのかもしれない。
泰葉は皆の楽しい思い出を聞きながら、そんなことを考えていた。
(おしまい)
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岡崎泰葉「ラジオ体操第一」
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