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水谷香月「頑張れ、里山。私がついてるぞ」里山活樹「ああ」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/07/22(木) 00:04:16.73 ID:QC2+Cl8EO
里山活樹との出会いは極めて地味なもので、光葉高校を受験した際に同じ学校を受験していた彼が神社仏閣巡りが趣味だという祖母に貰ったお守りを落として、それを偶然拾ったことがきっかけだった。

すぐに落としたお守りを渡そうと思ったが、先述した通り神社仏閣巡り好きのお婆さんが大量に持たせたお守りが鞄から芋づる式に出てくるのを見て、そのまま貰うことにした。

あとから気づいたのだけど、そのお守りは何故か縁結びのお守りで、ご利益を実感した。

何はともあれ、無事にお互い志望校に合格して、里山活樹は私にとって気になる男子となり、地味な外見ながらおっちょこちょいな彼がよくウロチョロしているのを校内で見かけるたびに私は目で追ったりしていた。

多くの女生徒が気になる男子を目で追う意味合いとして、もちろん観察目的であることは言うまでもないが、身辺調査的な要素が含まれていることを私は実体験として理解した。

里山活樹の周囲には頭の悪そうな如何にもボクサー向きの男子生徒が居るだけで女っ気がまるでなく、どうやら彼はモテないらしい。

しかし、同じクラスの女子曰く、里山は。

『里山くんって、かわいい顔してるよね』

とのことで、たしかにわりとかわいい顔をしていると納得し、惹かれた理由を見つけた。

2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/07/22(木) 00:06:58.69 ID:QC2+Cl8EO
私はどうも、かわいい男の子が好きらしい。

理由はいくつか考えられる。家庭の影響だ。
昔、東洋ウェルター級チャンピオンまで上り詰めた元プロボクサーの父がボクシングジムを経営をしていて、父を含めてゴツい男の人にウンザリしていたことや、気性の荒い父と短気で勝気な母との喧嘩を幼い頃から間近で観戦していたことが主な理由だと思われる。

「里山活樹か……」

自分と同じ読み方の彼の名前を呟きながら見つめていると、ふいに彼がこちらを見た。
私が見つめていると、彼は視線の先を探すようにキョロキョロして首を傾げている。

かわいい。たしかに、里山活樹はかわいい。

女受けが良さそうなものだけど、不思議とモテないのは恋愛対象として見られていないのだろう。たしかに、決め手に欠ける印象だ。

3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/07/22(木) 00:09:25.59 ID:QC2+Cl8EO
「自信持てばいいのに」

まるでリングの上で逃げ回る弱者のようだ。
立ち向かう姿がまるで想像出来ない。でも。
それでいいと思っていた。しかし、違った。

「……なんだろう、この感じ」

キョロキョロするのをやめて、里山活樹がこちらを見つめている。負けじと見つめ返す。
すると、何故か一歩後退る。距離感を測る。

わからない。間合いが。どう詰めればいい。

「……っと」

いけない、いけない。悪い癖だ。手を振る。

「?」

手を振られた里山は頭の上にクエスチョンマークを浮かべて怪訝そうな顔をして首を捻っている。さっきまでの雰囲気は消え去った。
ボクサーに囲まれて育った私はついつい間合いを測る癖がある。里山活樹は素人なのに。

素人なのに。何故、この私が、臨戦態勢に。

その時に感じた違和感の正体を、私は後日、身をもって思い知る。ゴングが、鳴り響く。
私はヘッドギアとグローブをはめて、リング上で里山活樹と対峙する。なんだこの状況。

4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/07/22(木) 00:11:19.71 ID:QC2+Cl8EO
ドシンッ!

「うぐっ」

里山活樹の右フックをガードする。痛い。
まだ鍛え始めて間もないのに、重かった。
具体的には私の身体が浮き上がるくらい。

「んなろっ」

バスッ! バスッ! バスッ!

説明するまでもなく私はか弱い女子なので手数とクリティカルヒットで里山に対してダメージを蓄積させる。既に彼は足にきている。

「っ!?」

ドカンッ!

がむしゃらに打った里山の右ストレートが思ったよりも伸びてきた。ガードしながらスウェーをするも、吹っ飛んだ。やはり、重い。

「まだまだ!」

シュッ! シュッ! シュッ!

緩慢な足取りで距離を詰めようとする里山をジャブで迎撃する。何発かが顔面を捉えた。
所詮女の力とはいえダメージは確実に蓄積されていて、里山のかわいい顔が歪んでいく。

5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/07/22(木) 00:13:09.82 ID:QC2+Cl8EO
「このっ……倒れ、ろっ!」

ドッ! ゴッ! バンッ!

コンビネーションで仕留めにかかるも、彼は倒れない。そして私は気づいた。間合いだ。
いつの間にか、ここは彼の間合いの内側で。

「はっ……はっ……はっ……」

攻めている筈の自分が追い詰められている。
この感覚には覚えがある。格上の対戦相手。
どんなに小手先で勝負しようとしても、ボクシングには絶対に埋められない距離がある。

「あ……あ、あ……」

負けると思った。里山には勝てないと悟る。
それは性別がどうとか、技量がどうとか、そんな問題ではなく、単純に自然の掟である。

弱肉強食。弱者の肉を強者が食う。
私は獲物で、里山は捕食者だった。
もし彼がアッパーの打ち方を習ってたなら。

「……勝った」

意識を失った相手に胸を貸して支えてやったのは里山のほうだっただろう。私は勝った。
立ち直れない恐怖と、彼に罪悪感を抱いて。

「勝ってごめんね……里山」

勝利を嬉しいと思えなかったのは初めてだ。

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/07/22(木) 00:15:27.33 ID:QC2+Cl8EO
「いくぞぉ! 里山ぁ!」
「こぉい!! 水谷ぃ!」

あの日から、彼に対して遠慮がなくなった。
主人公と殴り合うヒロインなんてそれほど多くはないだろう。アイデンティティである。

「よぉく味わえよぉ!!」
「お、お手柔らかに……」
「気合いを入れろぉ!!」

そう思うことにして里山活樹を鍛えあげた。

「こうだっ!!」

ボスッ!

「うぐぁっ!?」

ただ力任せに殴れば相手が倒れるわけではない。正確な場所に適切なタイミングで拳を打ち込むことで、ようやく相手の膝が折れる。

「わかった?」
「ま、参った」
「降参にはまだ早いぞぉ!」

亀みたいに蹲り、悶え苦しむ里山を強引に立たせる。すると、期せずして後ろから抱きつくような格好となり、しばらくじっとする。

「み、水谷……?」
「里山……頑張れ」

こうして密着していると努力が伝わった。
私に負けたことが、悔しかったのだろう。
もう負けないように、里山は努力してる。

7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/07/22(木) 00:17:24.16 ID:QC2+Cl8EO
「頑張れ、里山。私がついてるぞ」
「ああ」
「里山ぁ!! 世界目指せぇ!!」

セコンドらしく声を張り上げると、里山も。

「ああ! 見てろ世界!」
「見せてやれ、世界!」
「見せてやる、世界!」

気合いが入ったところで、里山を解放した。

「よーし! じゃあ、洗濯するから脱げ!」
「水谷ぃ!」
「なんだぁ! 里山ぁ!」
「いつも漏らしてほんとごめんなぁ!!」
「フハッ!」

ボディに打ち込まれると漏らしてしまうのが彼の唯一の弱点で、そこを執拗に狙うのが私の愉しみだった。ほんとごめんなぁ、里山。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「水谷ぃ! 絶対世界を見せてやるからな!」
「里山ぁ! 世界は逃げないから焦るなよ!」

私は里山香月。妻なのに、彼は旧姓で呼ぶ。

今まさに新たな世界を見せてくれた未来のチャンピオンのパンツを洗うのが私の役目だ。
ほんと毎日お婆ちゃんのお守りに感謝です。


【DASU!】


FIN



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元スレ: 水谷香月「頑張れ、里山。私がついてるぞ」里山活樹「ああ」
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[ 2021/07/22 06:55 ] その他 | TB(0) | CM(0)
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