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杏「きらりはくふくふ笑う」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474372610/

1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 20:56:50.39 ID:iQuGjVDwo
【モバマスSS】

ハッピーエンドではないです
 


2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 20:57:45.73 ID:iQuGjVDwo

 杏は微睡みから目を覚ました。
 見慣れてしまった天井、照明。見回すとこれも見慣れてしまった壁、窓、調度品。
 ベッドに寝たままの状態自体には慣れたものだが、場所が自分の家でないとやはり調子は狂う。
 しかも、今は怠惰を楽しんでいるわけではない。杏にしては珍しく、不本意ながら寝ているのだ。

 どうせ寝なければならないのなら慣れた場所が良い。自分の部屋か、あるいは事務所のソファか。

 そこまで考えて杏は笑ってしまった。

 事務所のソファにはどれほどご無沙汰しているのか。
 杏にとっての定位置には、もうあのソファはないだろう。とっくに撤去されていてもおかしくないのだから。
 それとも「トップアイドルになれるクッションソファ」などと、ふざけたネーミングで安置されているかも知れない。

 ちひろなら、いや、仁奈や莉嘉でも悪戯半分でやりかねない。
 とはいえ、杏に今更それをどうこうする気も権利もないのだが。

3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 20:58:13.42 ID:iQuGjVDwo
「……そろそろ、だよね」

 杏は病室の壁に掛けられた時計を見た。
 そろそろ、きらりが来ると約束した時間だ。

「杏ちゃーん、来たゆ~」

 案の定、きらりの声がする。流石に病院の中だと声は抑えているが、特徴ある口調はそのまま。
 約束に厳しいきらりだけある、と杏は感心した。

 今の杏には、きらりのいつもの口調も乱入も心地良い。 
 なにしろ、ベッドに縛りつけられるようにして過ごしているのだから。
 多少の波乱はあっても変化は大歓迎だ。

4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 20:58:40.28 ID:iQuGjVDwo

「やほー、杏ちゃん、来たよー」

 だから第一声はこうなる。

「うぇー、退屈だよ、きらり、なんとかして」

「だーめぇ。今の杏ちゃんはおねんねしてるのがお仕事だよ」

「うー、退屈すぎる。せめてゲームくらい」

「だーめぇ。Pちゃんにちゃーんと頼まれてゆからね」

「くそっ、Pめ、年々横暴になっていくじゃあないか。杏のこと大切にするって言った癖に」

5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 20:59:07.53 ID:iQuGjVDwo

「大切にしてるよ?」

 真顔で首を傾げるきらりに、杏は絶句。そして、ややあって唸るように呟きながら頷いた。

「……そりゃあ……わかってるけどさ」

 くふくふときらりは笑う。
 きらりは、数年前の杏とPの結婚式の前後から、時々こんな風に笑うようになった。
 含み笑いを我慢して、それでも仕方なく笑ってしまうような、そんな笑い方。

 正直、杏はこの笑い方が好きではない。
 らしくない、と感じてしまう。いや、はっきり言えば不快だ。
 それでも、杏は何も言わない。何も言えない。
 そんな笑いをさせている原因が自分にあるかも知れないから。
 その真偽をはっきりさせるために尋ねることも出来ない。

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 20:59:34.57 ID:iQuGjVDwo

 肯定されてしまえば、自分はきらりと一緒にいられなくなる。少なくとも、こんなつきあい方は出来なくなる。
 
 そして、きっと、多分、きらりは、肯定を、する。だろうから。

「杏ちゃんはぁ、もうちょっとPちゃんのことわかってあげないとぉ」

「わかってあげないと?」

「まゆちゃんに取られちゃう」

「う」

「凛ちゃんだって、まだ狙ってゆ」

「うう」

7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:00:02.74 ID:iQuGjVDwo

 二人の名前が出た。
 二人の名前しか出ないことを、杏は知っている。
 こんな会話の流れになったときに必ず出る二人の名前。
 名前の出ない三人目を、杏は知っている。

「まだまだみーんな、Pちゃんのこと大好きだから」

 三人目の名前は出ない。
 何事も無かったように、何事も気付かなかったように、会話は続けられる。

「ふんっ」

「杏ちゃん?」

「べっつにぃ、Pがモテてるのは杏の自慢になるから良いもんねー」

 また、きらりはくふと笑った。

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:00:30.17 ID:iQuGjVDwo

「それにさ」

 きらりの笑いを耳に入れていないふりをして、杏は言葉を続ける。

「杏はこれからPの子供を産むんだから」

 くふくふときらりは笑う。

「杏ちゃんだけだもんね。Pちゃんの子供が産めるのは」

「こう見えても、妻だからね」

「杏ちゃんとPちゃんの赤ちゃん、とーーっても、可愛いよね」

「幸子より?」

9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:00:55.99 ID:iQuGjVDwo

「幸子ちゃんよりカワイイよ!」

 くふくふときらりは笑う。

「楽しみだよ、可愛い可愛い杏ちゃんの赤ちゃん」

「んふふ、きらりは杏より楽しみにしてない?」

「杏ちゃんとPちゃんの子供だにぃ」

「Pの子供だから可愛いに決まってるよ」

 くふくふ

「早く出てこーい、可愛い赤ちゃん」

10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:01:22.90 ID:iQuGjVDwo

 きらりが杏のお腹に冗談めかして呼びかける。

 通常の妊婦よりもずいぶん早く、杏は入院していた。

 杏の体格で子供を産むということがどういう意味か。その危惧は当然のようにPにも杏にもあった、そしてきらりにも。
 だから、大事をとって入院している。医師の指示に従っている。
 万が一を億が一に、億が一を兆が一にするために。

「とは言っても、ホントに早まるのはノーサンキューだけどね」

「うん。杏ちゃん、大変だもんね」

「心の準備だけでも、ね」

 杏はふと天井を見た。
 そのまま、きらりのほうには顔を向けずに言う。

11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:01:49.69 ID:iQuGjVDwo

「ねえ、きらり」

「んにゅ?」

「前にも話したけれどさ」

「うん」

「どっちかを選ぶ、なんてことになったら、子供を選んでよね」

「杏ちゃん」

「もしものときは、お願いだよ、きらり」

 くふくふ

12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:02:16.20 ID:iQuGjVDwo

「だーめ」

 くふくふくふ

「そんな弱気はだーめ」

 くふくふくふくふ

 杏はきらりを見ない。きらりの顔を見ない。きらりの表情を見ない。

「杏ちゃんは、元気に赤ちゃんを産んで、立派に育てるの」

「約束してよ。子供を選ぶって」

「杏ちゃんがいなくなると、Pちゃん哀しぃよ? 赤ちゃんだって、寂しぃよ?」

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:02:42.58 ID:iQuGjVDwo

「きらりがいるから」

 くふくふくふくふくふ

「きらりがいるから、心配しないよ。そうでしょ?」

 くふくふ 杏ちゃん くふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふ 駄目だよ くふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふ Pちゃん くふ
 くふくふくふ 赤ちゃん くふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふ 可哀想よ くふくふくふくふ

「きらりなら、いいよ」

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:03:09.42 ID:iQuGjVDwo

 そう、思っていたはずだった。

 きらりのことが大好きだった。
 信用できる友達だった。
 自分に何かあったとき、全てを託しても良いと言える友達だった。

 くふくふ そ くふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふ れ くふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふ も くふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふ い くふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふ い くふくふくふくふくふ

「私の代わりに」

15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:03:35.86 ID:iQuGjVDwo

 だから、そう言える。

 きらりに託すことが出来る。
 それはもしもの話。
 決してきらりはそれを望んでいないと信じられるから言える話。
 
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ

 でも、この笑いはなんだ。
 きらりが悦んでいる。
 何故? 託されるから? 手に入れるから? 奪えるから? 

 杏はきらりを見ない。
 声だけが聞こえる。異様な笑い声だけが聞こえる。

16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:04:03.01 ID:iQuGjVDwo

 抑えなければならないのに、それでも漏れてしまう笑いが聞こえる。

 違う。きらりは違う。

 自分の知っているきらりは違う。

 こんな笑い方はしない。
 こんな喜び方はしない。
 きらりなら。
 自分の知っているきらりなら。

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:04:29.86 ID:iQuGjVDwo

 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 杏ちゃんの赤ちゃんならきっと可愛いにぃ

 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 きらりもうんと可愛がることが出来ゆよ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 Pちゃんのこともまかせて
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 杏ちゃんのぶんまで幸せにするよ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 きらりも幸せになるよ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 杏ちゃんがいなくなれば
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ

18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:04:57.63 ID:iQuGjVDwo

「やだ」

 そう、きらりの声がはっきりと聞こえた。
 笑いが止まった。

「こんなの、やだ」

 杏は顔を上げる。
 そこには、きらりがいた。
 涙目のきらりがいた。
 笑い声の止まったきらりがいた。
 嫌だ、と呟くきらりがいた。

「きらり?」

「ごめん、ね」

 身を翻し、きらりは病室を出て行く。

 ドアの向こうから、再び笑い声が聞こえたような気がした。

 それ以来、杏はきらりの姿を見ていない。

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:05:24.42 ID:iQuGjVDwo
 
 
 
 
 
 
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20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:05:51.60 ID:iQuGjVDwo

 きらりは、受付で杏の部屋を確認する。
 部屋番号は知っているが、面会の申し込みは必要だ。それに、杏は特別個室にいる。
 何しろ元とは言えトップアイドル、普通の病室に入るわけにも行かないだろう。

 受付を済ませ、病院本棟からは離れになる特別病棟へ向かう。
 特別病棟にあるのは産婦人科だけではない、一時期、北条加蓮も時々検査入院していたはずだ。
 入院ではないが検査という意味では、輿水幸子もちょくちょくお世話になっていた。

 エレベーターに乗り、目的の階。杏の病室はすぐそこだ。

「杏ちゃーん、来たゆ~」

 約束していた時間通りだ、と確認しながらきらりは扉を開く。

21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:06:17.96 ID:iQuGjVDwo

「やほー、杏ちゃん、来たよー」

 ベッドの上で所在なさげにぼうっとしていた杏が、きらりの姿を認めると言った。
 
「うぇー、退屈だよ、きらり、なんとかして」

「だーめぇ。今の杏ちゃんはおねんねしてるのがお仕事だよ」

「うー、退屈すぎる。せめてゲームくらい」

「だーめぇ。Pちゃんにちゃーんと頼まれてゆからね」

「くそっ、Pめ、年々横暴になっていくじゃあないか。杏のこと大切にするって言った癖に」

 そんなことを言いながらも、杏の顔は嬉しそうに笑っていることをきらりは見逃さない。

22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:06:44.91 ID:iQuGjVDwo

「大切にしてるよ?」

 一瞬、杏は口を閉じ、くふくふと笑った。

「……そりゃあ……わかってるけどさ」

 くふくふと杏は笑う。
 杏は、数年前にPと結婚した前後から、時々こんな風に笑うようになった。
 含み笑いを我慢して、それでも仕方なく笑ってしまうような、そんな笑い方。

 正直、きらりはこの笑い方が嫌いだ。
 らしくない、と感じてしまう。

 それでも、きらりは何も言わない。何も言えない。
 そんな笑いをさせている原因が自分たち……自分かも知れないから。
 尋ねることも出来ない。

23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:07:11.61 ID:iQuGjVDwo

 肯定されてしまえば、自分は杏と一緒にいられなくなる。少なくとも、こんなつきあい方は出来なくなる。
 そう、感じてしまうから。
 
 そして、きっと、多分、杏は、肯定を、する。だろうから。

 Pを奪ったのは自分だと、杏自身が知っている。自分が何をしたか、杏は知っている。
 渋谷凛、佐久間まゆ、そして、もう一人。
 自分が皆からPを奪ったことを、杏は知っている。
 杏はそれを隠さない。
 
 きらりはそれに気付かないふりをする。
 
 そして会話を重ねる。
 無邪気に、杏の心など知らないふりをして。

「杏ちゃんはぁ、もうちょっとPちゃんのことわかってあげないとぉ」

24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:07:38.15 ID:iQuGjVDwo

「わかってあげないと?」

「まゆちゃんに取られちゃう」

「う」

「凛ちゃんだって、まだ狙ってゆ」

「うう」

「まだまだみーんな、Pちゃんのこと大好きだから」
 
 もう一人の名前は出ない。出せない。

「ふんっ」

25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:08:04.95 ID:iQuGjVDwo

「杏ちゃん?」

「べっつにぃ、Pがモテてるのは杏の自慢になるから良いもんねー」

 また、杏はくふと笑った。

「それにさ、杏はこれからPの子供を産むんだから」

 くふくふと杏は笑う。

「杏ちゃんだけだもんね。Pちゃんの子供が産めるのは」

 きらりはそう答えるしかない。

「こう見えても、妻だからね」

26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:08:31.61 ID:iQuGjVDwo

 杏はくふくふと笑う。

 自分は妻だと、唯一の妻だと言うように。
 凛でもまゆでもない、自分が妻だと言うように。

「杏ちゃんとPちゃんの赤ちゃん、とーーっても、可愛いよね」

「幸子より?」

「幸子ちゃんよりカワイイよ! 楽しみだよ、可愛い可愛い杏ちゃんの赤ちゃん」

「んふふ、きらりは杏より楽しみにしてない?」

「杏ちゃんとPちゃんの子供だにぃ」

「Pの子供だから可愛いに決まってるよ」

 くふくふ

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:08:57.81 ID:iQuGjVDwo

「早く出てこーい、可愛い赤ちゃん」

 きらりは杏のお腹に冗談めかして呼びかける。

 通常の妊婦よりもずいぶん早く、杏は入院していた。

 杏の体格で子供を産むということがどういう意味か。その危惧は当然のようにPにも杏にもあった、そしてきらりにも。
 だから、大事をとって入院している。医師の指示に従っている。
 万が一を億が一に、億が一を兆が一にするために。

「とは言っても、ホントに早まるのはノーサンキューだけどね」

「うん。杏ちゃん、大変だもんね」

「心の準備だけでも、ね」

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:09:25.01 ID:iQuGjVDwo

 きらりがふと時計を見たとき、杏は言った。

「ねえ、きらり」

「んにゅ?」

「前にも話したけれどさ」

「うん」

「どっちかを選ぶ、なんてことになったら、子供を選んでよね」

「杏ちゃん」

「もしものときは、お願いだよ、きらり」

29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:10:17.57 ID:iQuGjVDwo

 ねえ、三人目。そんな声が聞こえたような気がした。

 くふくふ

「だーめ」

 くふくふくふ

「そんな弱気はだーめ」

 くふくふくふくふ

 きらりを時計を見ている。話しかけてくる杏の顔を見ない。杏の表情を見ない。

「杏ちゃんは、元気に赤ちゃんを産んで、立派に育てるの」

30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:10:45.33 ID:iQuGjVDwo

「約束してよ。子供を選ぶって」

 ほら、三人目。私が居なくなるんだよ。

 くふくふくふくふくふ

 嬉しくないの? チャンスだよ。

「杏ちゃんがいなくなると、Pちゃん哀しぃよ? 赤ちゃんだって、寂しぃよ?」

 息苦しさを、きらりは感じていた。

「きらりがいるから」

31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:11:12.42 ID:iQuGjVDwo

 三人目。

 くふくふ きらりが くふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふ いるから くふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふく 心配など ふくふ
 くふくふくふ しないよ くふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふ でしょ? くふくふくふくふ

「杏ちゃん、駄目だよ。Pちゃんと赤ちゃんが可哀想」

 そう、思っていた。

 二人のことが大好きだった。
 二人のためならがんばれる。託されてもいい。

 だけど、失いたいとは思わない。失いたくない。
 失うために奪いたくなどない。

32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:11:40.53 ID:iQuGjVDwo

 くふくふ き くふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふ ら くふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふ り くふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふ な くふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふ ら くふくふくふくふくふ

「それもいい、なんて絶対言わない」

 二人を守りたい。

 二人のためになら役立ちたい。
 それは、二人のため。
 二人が好きな自分のため。

 二人の幸せを壊したいわけじゃない。そんな前提の自分の幸せはいらない
 杏が何を言っても、それだけは変わらない。

33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:12:10.17 ID:iQuGjVDwo

 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ

 でも、この笑いはなんだ。

 杏が笑っている、嘲笑っている。
 何故? 手に入れたから? 奪ったから?
 凛から、まゆから。

 きらりから。 

 きらりは杏を見ない。
 声だけが聞こえる。異様な笑い声だけが聞こえる。

 抑えなければならないのに、それでも漏れてしまう笑いが聞こえる。

 違う。杏は違う。
 自分の知っている杏は違う。

 こんな笑い方はしない。
 こんな喜び方はしない。
 杏なら。
 自分の知っている杏なら。

34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:12:40.79 ID:iQuGjVDwo

 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 私とPの赤ちゃんならきっと可愛いよ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 きらりもうんと可愛がるよね
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 Pも一緒にね
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 でも私が居るんだよ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 私が居るからきらりのものにはならないよ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 Pも子供も私のものだよ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ
 くふくふくふくふくふくふくふくふくふくふくふ

35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:13:07.21 ID:iQuGjVDwo

「やだ」

 杏の声がはっきりと聞こえた。
 笑いが止まった。

「こんなの、やだ」

 きらりは視線を降ろした。
 そこには、杏がいた。
 涙目の杏がいた。
 笑い声の止まった杏がいた。
 嫌だ、と呟く杏がいた。

「杏ちゃん?」

 一瞬の空白の後、再び笑い声が聞こえ始めた。

 身を翻し、きらりは病室を出る。

 それ以来、きらりは杏の姿を見ていない。

36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:13:34.73 ID:iQuGjVDwo
 
 
 
  
 
 

 
 
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37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 21:14:05.31 ID:iQuGjVDwo


「本日はお話ありがとうございました。ところで……」

 かつてアイドルであった女への取材を終え、記者は尋ねる。

「彼女にお会いになったりはしないんですか?」

 かつてアイドルであった女は、記者の質問に答えた。

「まだ……笑い声が、聞こえるんです」

38 : ◆NOC.S1z/i2 2016/09/20(火) 21:14:37.03 ID:iQuGjVDwo

 終

39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 22:02:14.79 ID:tzUR05f7o
ちょっとわかんない

40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 22:05:23.41 ID:cf0sB9MHo
おっつ。聞こえてた笑い声はどっちも幻聴ってことかな?

42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/30(金) 05:05:48.86 ID:6+6Gs6zLo
紅と蒼の可能性もある



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元スレ: 杏「きらりはくふくふ笑う」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474372610/


[ 2020/09/03 22:25 ] モバマスSS | TB(0) | CM(0)
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