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【アイマス】「伊織お嬢様、お風邪を召しますぞ?」

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 01:51:34.85 ID:ccb5U5TgO
12月の冷たい風が私の隣を吹き抜けていく

まぁ、確かに寒いわね

だけど

「自宅の敷地内のどこにいようと、私の勝手でしょ?」

背中を向けたままで新堂に返事をした

視線の先では、午前中の雨が作った水たまりの水面が風で波立っている

2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 01:54:59.74 ID:ccb5U5TgO
「どうせ、お父様に何か言われてきたんでしょ?」

「いえ、何も。本当でございますよ」

別にどっちでもいいわ

何か言われても耳を貸す気はないから

「どうなさるおつもりですか?」

「アンタには関係の無いことだわ」

3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 01:58:29.09 ID:ccb5U5TgO
そう、これは私の問題

もっとも、お父様はお父様で私の話に耳を貸す気は無いみたいだけど

私を自室に呼びつけるなり

このまま芸能活動を続けるなら、お前とは縁を切る

だってさ。しかも

24時間以内に決めろ

ときたもんよ

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:01:15.03 ID:ccb5U5TgO
まぁ、私にも原因はあるんだけどね

事務所のコ達が私と離れたがらないもんだから、ついつい居座っちゃった

何よ?私は別に、居心地が良くて居座ってるわけじゃないんだから!

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:03:35.03 ID:ccb5U5TgO
だから続けるにしても辞めるにしても、それは自分で決めること

たとえお父様でも、人からとやかく言われて

「じゃあ辞めます」

ってのは癪だわ

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:05:57.09 ID:ccb5U5TgO
「やはりお悩みのようですな」

うるさいわねぇ

質問されてもないのにベラベラ喋るんじゃないわよ

「悩んでなんかないわ。考えてるだけ」

前者と後者は全く別でしょ?

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:09:23.23 ID:ccb5U5TgO
「続けたいとお考えですか?」

辞める理由は特に無いもの

それに、辞めたら暇潰しの手段が減っちゃうじゃない

やよいあたりは、私がいなくなったらワンワン泣いちゃうだろうし

ま、一種の慈善活動よ

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:13:02.17 ID:ccb5U5TgO
「伊織お嬢様は、どのようなアイドルになりたいとお思いですか?」

アンタ、今日はよく喋るわね

「一番よ。つまりトップアイドル」

そうでなきゃ、やってる意味ないじゃない

お父様、それに…

お兄様にも私を認めさせなきゃならないんだから

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:16:55.95 ID:ccb5U5TgO
「伊織お嬢様らしいですな」

「それ、誉めてんの?」

「もちろんでございますとも。ただ…」

「ただ、何よ。ハッキリおっしゃい」

「…伊織お嬢様、ボクシングはお好きですかな?」

「はぁ?」


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:20:41.96 ID:ccb5U5TgO
リングの上で殴り合うアレでしょ?

「あんな野蛮なものに興味なんてないわ」

「そうでございますか。私はその野蛮なものが好きでしてな」

「アンタの趣味なんてどうでもいいんだけど」

「まぁ、お聞き下さい。昔、アイルランドに1人のボクサーがおりましてな」

語り始めちゃったわ、コイツ

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:24:20.57 ID:ccb5U5TgO
「フェザー級の世界王者に登りつめたほど選手だったのですよ。」

フェザーって羽根?
ボクシングの階級なんて知らないし

「その王者に対して、ある記者が極めて俗な質問をしたのです」

「なんて聞いたの?」

「なぜボクサーなのか、と」

あぁ、それは極めて俗ね
まぁ記者なんて、揃いも揃って俗人なんだけど

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:28:28.81 ID:ccb5U5TgO
「王者はこう答えました。詩人にはなれない、と」

「…カッコつけすぎね、そいつ」

「私は大好きなのですよ、その返答が。皮肉を意図せぬ皮肉、と申しましょうか」

だから、アンタの趣味とか好みはどうでもいいって

「詩人にはなれない、と、とっくに詩人たる勇者は詩を語ったのです」

…何が言いたいのよ

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:34:38.87 ID:ccb5U5TgO
「…あぁ、年甲斐もなくつい熱くなってしまいました」

ほんと、漫画に出てくる体育教師みたいな熱さだったわ

「つまるところ詩というものは、何を語るのかということよりも、誰が語るのか、ということの方が重要でありそうですな」

「私に何か含むところがありそうね」

「いえいえ、年寄りの独り言だとお思い下さいますよう」

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:37:59.38 ID:ccb5U5TgO
誰が語るのか

ねぇ

誰が歌うのか

って言われてる気がするんだけど

でもアイツ、それを聞いてやる前にさっさと立ち去っちゃったし

まぁ、いいわ
ホントに風邪引きそうだから、部屋に戻るとしましょ

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:42:46.85 ID:ccb5U5TgO
「あと20時間かぁ…」

まぁ、4時間くらいで答えが出るなんて最初から思って無かったけどね

でも、今度ばっかりはお父様も本気みたいだし…

「うさちゃん。伊織、どうすればいい?」
「…」

…自分で考えろってことね
ご主人さまに対していい度胸してるじゃない

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:48:15.56 ID:ccb5U5TgO
「…寒い」

真っ暗な部屋で目を開ける

どうやら、布団もかけずに眠りに落ちてたみたい

時計に目をやると、深夜3時を迎えようとしていた

「…あったかいココア飲みたい」

抱きしめたままのうさちゃんに向かって呟いた

当然ながら返事は…

「相変わらずココアが好きなんじゃな、伊織は」

…へ?

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:51:27.18 ID:ccb5U5TgO
まだ暗闇に慣れていない眼で部屋の中を見回した

ベッドの周り、テーブルの上、タンスの前、そして…

仄かな月明かりが差し込む窓の縁に、その人は座っていた

「…お祖父…ちゃま?」


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:53:59.79 ID:ccb5U5TgO
「大きくなったねぇ、伊織」

…ウソ

ウソよ

ウソウソウソウソ!

だってお祖父ちゃまは…

5年も前に亡くなったはず…

まだ小さかった私の手を握りながら、静かに息を引き取ったはずよ…

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 02:59:40.60 ID:ccb5U5TgO
「ア、アンタ誰!」

「こらこら伊織。年頃の娘がそんな言葉を使ってはならん」

「だ、だって…だって!」

一向に頭の混乱が収まらない私の変わりに、お祖父ちゃまらしき人が部屋の照明をつけた

綺麗に整えられた頭髪、威厳を湛えた白い顎髭…

それらを、照明の白光が照らしだしている

本当に…お祖父ちゃまなの?

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 03:03:46.93 ID:ccb5U5TgO
「ただいま伊織。もっとも、長居はできんがね」

深く沈んだ声

人を従わせる何かを持った声

だけど私に対しては、どこまでも優しい声

その声は紛れもなく…

お祖父ちゃまの声だった

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 03:07:39.47 ID:ccb5U5TgO
「お祖父ちゃま…お祖父ちゃま!」

5年ぶりに飛び込んだお祖父ちゃまの胸は、甘い香りがした

おそらくそれは、老臭というやつなのだろう

甘ったるい老いの香り

だけど、私はその香りが好きだった

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 03:13:03.28 ID:ccb5U5TgO
「お祖父ちゃま、伊織ね…」

自分を名前で呼ぶことに、何の気恥ずかしさもない

だってこの人は、私が自分のままでいられる、唯一の人だから

「わかっているよ伊織。何も言わなくていい。お祖父ちゃんに任せておきなさい」

優しく頭を撫でられながら、お祖父ちゃまの声を聞いた

その声は深く沈んでいて、やっぱり、どこまでも優しかった


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 03:18:27.51 ID:ccb5U5TgO
再び目を覚ますと、私はベッドの中にいた

きちんと布団がかけられ、照明も消えていた

「…夢…だよね、やっぱり」

夕べのことを思い返す

たしかにお祖父ちゃまの匂いを嗅ぎ、声を聞いた

それはあまりにもリアルだったけど…

ふと時計を見ると、午後2時ちょうどを指していた

「あと3時間しかないじゃない!」

一気に現実に引き戻される

41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 03:23:40.99 ID:ccb5U5TgO
どうしよう!

何も考えがまとまってない!

家を出てアイドルを続けるか、諦めて何不自由ない生活を送るか

「どうしよう…」

クラクラする頭を持て余した私は、気が付くと昨日と同じ場所にいた

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 03:30:01.48 ID:ccb5U5TgO
昨日あった水たまりはもう無くなっていた
ずっと同じであり続けることは、やっぱりとっても難しい

やがて僕ら 深い闇へと沈むだろう
さようなら! 短く激しかった夏の光よ

いつかフランス名詩選で読んだ古い詩が頭をよぎった

あのコ達とじゃれあっていた日々は、私にとっての"夏の光"になってしまうんだろうか…

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 03:34:48.92 ID:ccb5U5TgO
「やはりここでしたか」

予想通り…というか期待通り、また後ろから声をかけられた

「新堂…私、どうしよう…」

また背中を向けたままで言った
執事なんかに泣き顔見せられるわけ…

…何よ?
はぁ?アンタの聞き間違いよ!

これくらいで水瀬伊織が泣くわけないでしょ!バカぁ!!

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 03:40:39.53 ID:ccb5U5TgO
「申し訳ありませんが、私はお答えできる立場ではありません」

何よ、分別くさいわねぇ!!

年相応のアドバイスとかできないわけ?

って言ってやろうして振り返ったら、新堂の顔が青ざめていた

怖れと畏れが入り交じった視線を追ってみた

その終着点に、その人はいた

「先代様…」


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 03:47:07.23 ID:ccb5U5TgO
そう呟くと新堂は、まだぬかるんでいる地面に平伏した

顔やスーツが泥まみれになるのなんてお構いなし

相手が当代、つまりお父様でも、新堂はここまで畏怖したりはしない

「新堂か。久しいのぅ」

「は…」

「出来の悪い一族のせいで、相変わらず心労が絶えんようじゃな。ご苦労なことだ」

「み、身に余る過分なお言葉を頂戴し、恐縮の極みにございます」

51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 03:50:18.62 ID:ccb5U5TgO
「相変わらず生真面目じゃのぅ。その生真面目さのおかげで、生前は何かと助かったが」

「せ、先代様…勿体無いお言葉でございます…」

…いい年した大人の男が泣かないでよね、まったく

こっちまで鼻の奥がツンとしてきちゃったじゃない


52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 03:55:50.06 ID:ccb5U5TgO
「新堂、顔を洗ってこい。それとスーツも着替えよ」

「と、申されますと?」

「伊織が息子に何か伝えるのだろう?私も同席する。お前も立ち会え」

「…はい。お言葉通りに」

「えっ?お祖父ちゃま?」

腕時計の針は、もうすぐ5時を指そうとしていた

54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 04:03:08.26 ID:ccb5U5TgO
新堂に先導され、三人で屋敷の中を進んだ

お祖父ちゃまの生前を知る使用人たちは、みんな立ち止まり絶句してる

当たり前よね

いま水瀬が持つほとんど全ては、この人によって生み出されたんだもの

しかも死んだはずのその人が悠然と歩いてるんですもの

驚かない方がどうかしてる

55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 04:07:13.04 ID:ccb5U5TgO
お父様のお部屋の前に着くと、時間は5時を10分ほど過ぎていた

大遅刻だわ…

普段なら、話すら聞いて貰えないはず

でもいまは…

そういえばお祖父ちゃま、同席するのはいいけど手荒なことしないでね?


57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 04:10:53.90 ID:ccb5U5TgO
暗くなり始めた廊下に乾いたノックの音が響いた

「旦那さ…当代様。新堂でございます」

訝しがるようなお父様の声がかえってきた

「…なんだ」

「伊織お嬢様と…先代様をお連れいたしました」

「おい新堂、呆けたか?」

この返答はそれほど的外れじゃないわよね?

59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 04:16:17.49 ID:ccb5U5TgO
「入るぞ」

お父様と新堂のやりとりを気にもかけず、お祖父ちゃまがドアを開けた

「新堂!勝手にドアを開けるとは、本気で呆…」

お父様の怒声が尻すぼみになっていく

まぁ、それも無理ないけど

「お、お父さん!」

「ほぅ。父親の顔は忘れてはおらなんだか、バカ息子」

狼狽したお父様の顔、久しぶりに見たわ

60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 04:22:17.23 ID:ccb5U5TgO
「な、なぜ…なぜ…」

「何に対する"なぜ"かは知らんが、いま私はここにいて、お前の呆けた顔を見ている。それで善しとせよ」

「は、はい…わかりましたお父さん」

まさに"有無を言わさず"って感じ
ホント、普段のお父様からは想像できない弱々しい姿と声

役者が違う、ってやつかしらね?


63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 04:26:54.21 ID:ccb5U5TgO
「伊織がお前に何か伝えるらしいのでな。同席させてもらう。新堂は立ち会い人兼証人じゃ」

「…お役目、謹んで拝命いたします」

…なんかズルい気もするなぁ

この状況じゃ、私が勝っちゃうのは目に見えてるもの

しかも、自分の力以外に頼ったカタチで

65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 04:31:09.03 ID:ccb5U5TgO
そんな私の気持ちを察したかのように、お祖父ちゃまが優しく言った

「伊織、外に出ていなさい」

「えっ?」

「アンフェアだと、そう思っているのじゃろう?」

「…はい」

「ならばここはひとまず、お祖父ちゃんに任せておきなさい」

「でも…」

「大丈夫、手荒なことはしないからね」

ホントに私の考えることがわかるんじゃないの?お祖父ちゃまってば

66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 04:34:47.88 ID:ccb5U5TgO
「5年ぶりに会ったのでな。出来が悪くても息子は息子。積もる話もあるんじゃよ」

…やっぱりこの声には、人を従わせる何かがある

はい、とだけ言い残して、私はお父様のお部屋を出た


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 04:40:05.69 ID:ccb5U5TgO
自分の部屋に帰り、ベッドに寝ころんだ

もしお祖父ちゃまが退室を促してくれなかったら、私はお父様に何て言うつもりだったんだろ?

アイドルを辞める

って言ってる自分は想像できない

だけど

家を出る

って言ってる自分も想像できない

たぶん何も言えずに、お父様からの指示にただ頷いてたんだろうな…

そしてそれは、お父様の目論見通りだったんだろうな…

68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 04:43:55.99 ID:ccb5U5TgO
うさちゃんを抱いてウトウトしていると、部屋をノックされた

「伊織、入るよ」

お祖父ちゃまの声

時計は7時過ぎ

「ど、どうぞ」

慌てて起き上がり、髪と服の乱れを整える


69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 04:47:42.56 ID:ccb5U5TgO
「伊織。お祖父ちゃんが話をつけてやったぞ。もう大丈夫だ」

「え?」

「もうしばらくは、お前の好きなようにするといい。家を出る必要もない」

…やっぱり

お祖父ちゃまがお父様を言いくるめたんだ

お祖父ちゃまには逆らえないって分かり切ってるもの


71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 04:55:02.40 ID:ccb5U5TgO
「…でも、それは…」

「伊織の言いたいことは分かる。だから明日、今度は自分の言葉で伝えなさい」

「自分の言葉で?」

「そうじゃ。いいかい伊織。言葉というものは無力かもしれん。しかしそんな風に嘆くのは、言葉を全て使い果たしてからでも遅くはないんだよ」

そう言うとお祖父ちゃんは、私を柔らかく抱きしめた

72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 05:00:06.87 ID:ccb5U5TgO
「伊織、お祖父ちゃんはもう行かなくてはならん」

「…うん」

「伊織、強くなりなさい。そしてそれ以上に優しくなりなさい」

「…はい、お祖父ちゃま」

たぶん本当には理解できないまま、お祖父ちゃまの言葉に頷いた

私は1人でいられるほど強くもないし、みんなと何かを分かち合えるほど優しくもないんだから…

73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 05:03:29.09 ID:ccb5U5TgO
「さようなら、伊織」

その声が消えると、あの甘い香りも薄らいでいった

「…さようなら、お祖父ちゃま」

1人になった部屋で、誰もいない空間に向かって呟いた

もう、声は帰ってこなかった

74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 05:07:21.41 ID:ccb5U5TgO
うさちゃんを連れて庭に出てみた

風は無く、12月だとは思えないくらい暖かかった

「…私、誰かに助けられてばかりだなぁ」

自分の力で何かを成し遂げたことが、いままでに何度あっただろう?

きっと、うさちゃんの指でも足りちゃうくらいよね…


75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 05:09:53.07 ID:ccb5U5TgO
「伊織お嬢様…」

…これで三度目ね

まぁ、期待通りではあるんだけどね

「新堂。お祖父ちゃまはお父様に何て言ったの?」

「…お答えできません」


77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 05:13:07.47 ID:ccb5U5TgO
「そう…そんなにヒドいこと言ったのね…」

他人を力で押さえつける…
やっぱり一緒なんだ
お父様もお兄様も、そしてお祖父ちゃまも

そうよね
それが水瀬の血なんだもの

79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 05:17:31.75 ID:ccb5U5TgO
「いえ…そうではございません」

「じゃあ何よ?まさか暴力を?」

「まさか!先代様はそのようなお方ではございません!」

ちょっとイライラ

「ハッキリおっしゃい!」

…あ~あ
この傍若無人なところも、水瀬の血、なんだろうな

「…先代様は…」

「お祖父ちゃまは?」

「…土下座なさいました」

80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 05:24:02.72 ID:ccb5U5TgO
「…は?」

「あの先代様が…気高く自尊心のお高い先代様が…当代様の前で床に額を擦り付け『伊織にもう少しだけ時間をやってくれ』と…」

「…ウソでしょ?」

「何度も何度も『頼む』と…そのお姿に、当代様も私も気を呑まれてしまいました…」

…ウソ

ウソよ

ウソウソウソウソ!

82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 05:29:58.56 ID:ccb5U5TgO
「…伊織お嬢様。先代様は、ご自分の為に頭を下げるお人ではありませんでした。ましてやあのような…」

だから、泣かないでよね!

執事に…執事なんかに泣いた顔見られたくないんだってば!!


84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 05:37:20.53 ID:ccb5U5TgO
「当代様はただ頷くしかありませんでした…先代様のあのようなお姿は、初めてご覧になったでしょうから」

「…」

「そして当代様のお部屋から出た後、私にこう申されました。『もうしばらく苦労をかける。すまん』と」

「…お祖父ちゃまが詫びたの?アンタに?」

「…はい」


85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 05:41:42.19 ID:ccb5U5TgO
なんで!

なんでお祖父ちゃまが詫びるの!?

新堂に苦労をかけてるのは生きてる私たちなのに!

お祖父ちゃまから受け継いだものでいい暮らしをして、偉そうにして、ふんぞり返って!

なんで受け渡したお祖父ちゃんが詫びるのよ!


86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 05:50:17.12 ID:ccb5U5TgO
「伊織お嬢様。先代様は最後に何と?」

「強くなれ。そしてそれ以上に優しくなれ、って」

「難しいことです…とても」

「えぇ…でも」

私は私の詩を語ろう

私の言葉を全て使い果たすまで

「新堂、お父様のお部屋に行くわ」

88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 05:54:34.86 ID:ccb5U5TgO
「…はい。不肖ながら、先導させて頂きます」

もうお祖父ちゃまはいない

だから、たった今から自分で守っていこう

自分の居場所くらいは


89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 06:00:42.13 ID:ccb5U5TgO
お部屋の前でドアをノックしかけた新堂を制止した

「如何なさいましたか?」

「えぇっと…その」

もう!眼を見られてたら言うの恥ずかしいでしょ!

「その、なんていうか…」

でも、お祖父ちゃまと約束しちゃったんだから仕方ないじゃない!

「…新堂…これからも…その…よろしくね…」

「…身に余るお言葉でこざいます、伊織お嬢様」

だから少しだけ、優しくしてあげるわ!!



お し ま い

90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/11(日) 06:02:43.32 ID:ccb5U5TgO
二ヒヒ
終わりよ終わり!

3レス目以降書きため無しだったから、エラく時間かかっちまった…

読み返してきま



元スレ: 「伊織お嬢様、お風邪を召しますぞ?」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1323535894/


[ 2019/07/03 11:55 ] アイマスSS | TB(0) | CM(0)
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