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【デレマスSS】いんせふぁらいてぃす・いん・わんだーあんずらいふ

1 : ◆VwJdgftwpk 19/05/28(火)00:40:20 ID:sGE
双葉杏ちゃんのSSです。
2レス目から始まります。

2 : ◆VwJdgftwpk 19/05/28(火)00:42:27 ID:sGE
モノローグ

「ケホ。」
双葉杏は、風邪をひいている。
一月中旬、正月気分が抜けてきて、そろそろ世の中も回り始める季節。今年も今年とて正月気分の抜けきらない杏は、不養生が祟り、案の定病にその身を冒されるここと相成った。
「きつい・・・」
熱は38.0℃。カロナール錠300を飲んだ。アセトアミノフェン、300㎎。
「だるい・・・)
言葉が最後まで出ない。現在午後三時。次のお薬、夜の九時。

3 : ◆VwJdgftwpk 19/05/28(火)00:46:49 ID:sGE
大方、向こう三日までは仕事もないだろう。後悔してる?と聞かれたら・・・
たぶん、してる。
杏はニート。ニート志望アイドル。本来ならば働くことは害であり、だらだらゴロゴロこそが至高。そうあるべき存在。けど、流石にお熱で寝込んじゃうのはNGだもん。
それにさ。それに、せっかくできたたくさんの友達に会えないのは、ちょっと寂しいよね。
あー、杏も変わったなー。

4 : ◆VwJdgftwpk 19/05/28(火)00:50:25 ID:sGE



三日後。

(なーんか早起きしちゃった…)

双葉杏は、早朝の事務所に姿を現していた。

このプロダクションで毎朝いの一番に出勤するのは、真面目な働き者、蛍光緑がまぶしい事務員ちひろさん。

こんな朝早くから杏の姿を目の当たりにしたせいか、ひどく動揺している様子だ。

(そんなに驚かなくったっていいじゃん…)

5 : ◆VwJdgftwpk 19/05/28(火)00:53:35 ID:sGE
次に出勤してくるのは、事務所の大黒柱であるプロデューサー

こちらも、玄関空けたら双葉杏状態に心底動揺し、目を回している。状況の整理が追い付いていないらしい。

その後続々と事務所に現れるアイドル達も、同じく吃驚していた。大体50人くらい。

6 : ◆VwJdgftwpk 19/05/28(火)00:56:04 ID:sGE
・・・最初に心配の言葉を投げかけるアイドルは、ほぼ皆無だった。

あいも変わらずソファーに深々と腰かけている双葉杏、時刻は朝。

見たことがあるようで見たことのない、何とも不思議な風景。

それを見て、皆の心の不安も雲散霧消、きれいに解決といったところであろう。ごもっともな話である。

7 : ◆VwJdgftwpk 19/05/28(火)00:59:13 ID:sGE

アイドル達は一斉に出かけていく。

(杏もそろそろ動き出そう・・・)

杏の矮躯が持ち上がり、のそっと動き出す。足でソファーの前面を蹴って前に飛び出そうとする。

(いやあやっぱ冬はお菓子に限あ痛ぁ“っ!?!?」

・・・・・・・・・・・

(右足つった…)

8 : ◆VwJdgftwpk 19/05/28(火)01:01:24 ID:sGE

(しょうがない、手で何とかぁあ“ぁ”あ“ぁぁあっっ!?!?!?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(右手もつった・・・)

双葉杏はひしひしと、身に沁みるように感じる。

詰んだ。

杏は諦めてそこから動かずに、目の前のテレビ番組でも見ていることにした。

9 : ◆VwJdgftwpk 19/05/28(火)01:03:22 ID:sGE

「おーい、あんずー。」

Pが杏に呼び掛ける。返事はない。

「あんずー」

杏は動かない。

「…あんず?」

Pが肩を叩く。その瞬間、杏に意識が戻った。

「ひょえっ!?プロデューサー!びっくりしたあ・・・」

「こっちのセリフだ。呼びかけても返事がないから、何事かと思ったよ。」

「っそ、そう・・・」(杏、今寝てた…?)

10 : ◆VwJdgftwpk 19/05/28(火)01:07:44 ID:sGE

ちひろさんが声を出す。


「杏ちゃん、目をつぶったままやけにボーッとしていましたね。やっぱり、まだ体調がすぐれないのでは?プロデューサーさん、今日は・・・」

「そうだな。杏、今日は幸いにも金曜日だ。土日、ゆっくり休養してこい。延長冬休みみたいなもんさ。」

「ほんとぉ!?やったぁプロデューサー、ありがとう!大好き!」

「そうかそうか、そりゃよかったよ。」

「あっでも…今日はここに居たいかな。」

「え、どうしてだ?」

「…足つっちゃって動けないし・・・」

「ハハハ・・・」

Pとちひろは苦笑いしていた。

18 : ◆VwJdgftwpk 19/05/29(水)22:41:01 ID:bzh

モノローグ

身体がおかしい。

熱はない。至って平常36℃。歩ける。喋れる。意識がある。私は双葉杏。

でも時々、よくわかんないことがあるんだよ。

19 : ◆VwJdgftwpk 19/05/29(水)22:45:01 ID:bzh

土曜夜、テレビを見ている。時刻は午後八時。

自宅のソファに深々と腰かけて、戸棚から取り出した飴玉を舐っている。

同じ事務所の同僚が出演しているバラエティのオープニングを、にやけた笑い顔を浮かべながら眺めt

20 : ◆VwJdgftwpk 19/05/29(水)22:48:09 ID:bzh

気が付くと杏は、埃のたまったフローリングに四肢を衝いていた。

意識が飛んだ…いや、時間が飛んだ?

ソファに座る自分と、そこから遠く離れたリビングの隅で這いつくばる自分。

瞬間と瞬間は、確かに途切れることなく続いていた。

21 : ◆VwJdgftwpk 19/05/29(水)22:51:29 ID:bzh

夢遊病?いや、杏は夢なんか見てない。眠った実感だって無いもん。

時計を見ると8時3分。ゆっくりと落ち着きを取り戻すと、背後から声が聞こえてくる。

オープニングトークは、たった今終わったみたいだった。

身につけていたパジャマは、あられもなくはだけきっていた。

22 : ◆VwJdgftwpk 19/05/29(水)22:54:59 ID:bzh

日曜夕方、寝床。

ベッドに横たわって入眠を待っていると、音が聞こえてくる。

ガサゴソ、ガサゴソ。衣と衣がこすれ合う音が響いてる。

ガサゴソ、ガサゴソ。なんだか杏、疲れてきちゃった。

目をつぶって耐えてたけど、いよいよ我慢ならない。杏は一度目を見開いて、音の出どころをじっと睨んだ。

23 : ◆VwJdgftwpk 19/05/29(水)22:59:51 ID:bzh

腕。腕が動いている。杏の。

杏の腕が、ひとりでに動いている。ぶんぶんと激しく右手が振りかざされている。

まるで、列車に乗って旅立つ親友を見送るように。まるで、主を見つけた犬の尾のように。

ぶんぶんと激しく右手は振りかざされる。

杏はびっくりして声を出せなかった。

自分の中の無意識が勝手に杏を操っているのかと思うと、おぞましさが湧いてくる。

しばらくたつとそれも収まって、不安に苛まれたりしながらも、杏はぐっすり寝ちゃった。

24 : ◆VwJdgftwpk 19/05/29(水)23:05:03 ID:bzh

月曜日。

すっかり元の様子に戻った杏は、変わらず事務所でだらけながら、それなりにはレッスンに打ち込んでいた。

やるときにはやる杏らしく、やはりというべきかその才能はいかんなく発揮されている。

振り付けや歌詞、メロディを覚える速度に関しては、彼女の右に出るものはそう居ない。

25 : ◆VwJdgftwpk 19/05/29(水)23:08:16 ID:bzh

「調子は抜群」と杏が豪語するように、いよいよ本調子が出せそうなのかもしれない。

P(ジャーキングを起こしたり、ぼーっとしている頻度は心なしか増えた気もするが…)

P(まあ、休みボケという奴なのだろう。そのうち治るさ。)

Pは心の中でそうつぶやき、今日も外回りに出かけた。

26 : ◆VwJdgftwpk 19/05/29(水)23:12:51 ID:bzh

しばらくたったある日の合同レッスン中。

“レッスン室1 使用中“の文字の下に佐藤、橘、双葉の文字が並ぶ。

ベテラントレーナーの檄がレッスン室内に飛ぶ。

ベ「ほら双葉!前回に比べて動きが遅いぞ!あまり寝られていないんじゃないか?調子が出てきたからと言って、不養生は禁物だ!」

杏(確かに寝られてない。実は昨日、この前みたいな不思議な現象が起きたから。)

27 : ◆VwJdgftwpk 19/05/29(水)23:16:00 ID:bzh

ベ「はいここでターン…大丈夫か?」

杏「いてて・・・」

足が突っ張った。これも前に経験した。

ベ「これは…杏の体調…しかし…うむ…」

むつかしそうな顔をして、ベテトレさんは唸っている。

杏(うう、こんなことならおとなしく休めば・・・でも)

あまり迷惑はかけたくない、と杏は思い、立ち上がる。

杏「もう大丈夫だよ。さ、続きやろ?」

ベ「おお、そうか。あまり無理はするなよ?」

28 : ◆VwJdgftwpk 19/05/29(水)23:19:39 ID:bzh

この時杏の体には、猛烈な危険が着々と迫っていた。

本人ですらそれには気づいていなかったが、ただ一人気づいている者が同じ室内に居た。

最年長、佐藤心である。

勿論、心に医学の知識などはないが、長年培ってきた勘は、杏の異常を見逃しはしなかった。

心(杏ちゃん、ヤバい。わかんないけどアレは絶対ヤバい。ちょっと今のうちにプロデューサー呼んどこ…)

29 : ◆VwJdgftwpk 19/05/29(水)23:22:09 ID:bzh

レッスンは続くが、やはり杏の鈍りが目に見えてわかってくる。

ベ「おい双葉、大丈夫か?今日の所はもう・・・)

杏「や、大丈夫。平気。うん。」

ベ「そ、そうか…」

30 : ◆VwJdgftwpk 19/05/29(水)23:25:16 ID:bzh

コンコン

P「すんません、プロデューサーですー。」

杏「あ、プロデューサー!?今行く!」

杏が扉へ駆けていく。

ありす(杏さん、片足引きずってる。やっぱり…)

ガチャリ

杏「ぷろでぅあ

バタ、と杏はその場にへたり込んだ。立ち上がれない。

31 : ◆VwJdgftwpk 19/05/29(水)23:29:34 ID:bzh

P「杏!?」

杏「あぇ・・・ぁれ・・・?」

杏は力なく右手を擡げ、プロデューサーに手を伸ばす。しかしそれもつかの間、彼女の筋肉は弛緩してしまう。

口元からはよだれが垂れ、ついに失禁までしてしまった。凄惨な様相を呈し、杏の意識は朦朧としている。

ありすが蒼白とした顔つきで息を呑む。愕然として辺りが静まり返ると、心がいつになく真剣な表情で叫んだ。

心「杏ちゃん!病院行くぞ!」

36 : ◆VwJdgftwpk 19/05/30(木)23:34:25 ID:ncH

モノローグ


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

37 : ◆VwJdgftwpk 19/05/30(木)23:37:37 ID:ncH




午後。

Pは救急車に揺られている。

意識を失った杏とともに、急患行きの救急車に揺られている。

あの後倒れた杏の救急搬送に、保護者として同乗している。矢継ぎ早な、救急隊員からの問診。

担架の上に臥した杏の瞼は一向に開かない。

38 : ◆VwJdgftwpk 19/05/30(木)23:40:42 ID:ncH

一通りの質問が終わり、壁に背中を預けると、命の鼓動が聴こえてくる。

たった数分が幾十時間にも感じられる不幸な相対性理論に巻き込まれ、ただただ虚空に意識を見つめ返す。

救急車に揺られている。。

39 : ◆VwJdgftwpk 19/05/30(木)23:42:56 ID:ncH

車両が病院に到着すると、Pは降ろされ杏が病棟の奥まで運ばれていった。

今は待合室で、宣告の時を静かに待ちわびている。

少し時が経った。ありすに加えて、杏の大親友であるきらりを乗せた自動車が走ってくる。

運転手は佐藤心。かわいらしい軽自動車だが、若干きらりは窮屈そうだった。

40 : ◆VwJdgftwpk 19/05/30(木)23:46:23 ID:ncH

きらり「杏ちゃん!杏ちゃんはどこにいるにぃ?きらり、とっても心配・・・」

P「今は検査中みたいだ。多分、今日か明日には大まかな結果は出るんじゃないかな…」

き「そう・・・きらり、杏ちゃんの無事を祈るにぃ。」

P「そうしてやってくれ。」

検査が終わるまで彼女たちは、総合病院の広いロビーでじっと待っていた。

41 : ◆VwJdgftwpk 19/05/30(木)23:49:30 ID:ncH

このまま検査入院か、それとも・・・

Pが弱弱しくそう呟いたとき、向こうの方からこちらを呼ぶ声が聞こえた。

それに呼応するように、Pも声を上げる。

P「は、はい!今行きます!」

P「心、ついて来い。」

心は一瞬ハッとして、それからすぐプロデューサーの後を追った。

42 : ◆VwJdgftwpk 19/05/30(木)23:53:19 ID:ncH

診察室の前の廊下、少しの待ち時間。肩を寄せ合う二人の会話が聞こえてくる。

P「・・・なあ、心。」

心「・・・なぁに?」

P「杏さ・・・・どうなるかな。」

心「わかんない…」

P「そうか・・・そりゃそうだよな。変なこと聞いてすまん。」

心「ううん、いいの・・・それより、杏ちゃん・・・」

P「…なんだ?」

心「無事だと、良いね。」

P「・・・うん。」

43 : ◆VwJdgftwpk 19/05/30(木)23:55:01 ID:ncH

繋がれた二つの手には、祈りが込められている。

心「・・・ねえ、P。」

P「・・・なんだ?」

心「杏ちゃんさ・・・・どうなるかな。」

P「わかんねえ…」

心「そう・・・そうだよね。変なこと聞いてごめんね。」

P「いや、いいんだ・・・それより、杏・・・」

心「…なぁに?」

P「無事だと、良いな。」

心「・・・うん。」

44 : ◆VwJdgftwpk 19/05/30(木)23:56:16 ID:ncH

呼び声が聞こえ、診察室の扉が開かれる。

小さな勇気を胸に、二人は光の中へ飛び込んだ。

45 : ◆VwJdgftwpk 19/05/30(木)23:57:14 ID:ncH

検査結果

病名 ラスムッセン脳炎

50 : ◆VwJdgftwpk 19/05/31(金)23:48:10 ID:HkO

モノローグ


あー、どうなるんだろうなあ。

気づいたら寝てて。そしたらこうだもんなあ。ここどこ・・・病院?

えーと、ちょっと思い出してみよう。確か事務所…踊ってて・・・レッスン?うん。レッスンしてた。

それで体が動かない・・・調子が悪かった。そこから記憶が・・・で今病院、と。

51 : ◆VwJdgftwpk 19/05/31(金)23:51:15 ID:HkO

ああ、これはひょっとして救急搬送でもされたかなびうgsvbごういrんtがいおvd


顔が勝手に動く。気味が悪い。

あー、どうなるんだろうなあ。

気づいたら寝てて。そしたらこうだもんなあ。ここどこ・・・おかしいなあ。

なんだかデジャヴみたいだ・・・

52 : ◆VwJdgftwpk 19/05/31(金)23:52:38 ID:HkO




差し出された紙と医師の口からは、同じ言葉が告げられた。

ラスムッセン脳炎。

53 : ◆VwJdgftwpk 19/05/31(金)23:55:23 ID:HkO

解説:ラスムッセン脳炎とは

慢性進行性の疾患である。

健常者に何らかの先行感染症やワクチン接種があった後に、あるいは先行感染なく限局性に細胞傷害性T細胞を主役とした自己免疫性炎症が起こり、通常はてんかん発作で発病する。

てんかん発作が難治に経過し、次第に片麻痺・知的障害などが出現し、半球性の萎縮がMRIで明らかとなる。

発病年齢は平均9.0(±10.3)歳だが、成人でも発病しうる。
 
情報元:難病情報センター

54 : ◆VwJdgftwpk 19/05/31(金)23:58:33 ID:HkO

心「っこ、これ、どういう病気なんですか…?」

医「脳炎、ってありますよね。その一種の症例になります。てんかん発作が主な症状です。」

P「何が、何が原因なんでしょうか、先生。」

医「残念ながら、まだ正確には分かっておりません。免疫細胞の異常によって引き起こされる、というのが一応、現在の主流になっている考え方です。」

P「そうですか…」

55 : ◆VwJdgftwpk 19/06/01(土)00:01:37 ID:gEF

心「あの、治療法とかは…」

医「申し訳ありませんが、それも未だ確立されておりません。なにぶん患者数が非常に少ない稀な病気でして、日本では今まで30症例弱しか確認されていないんです。」

心「そんな・・・」

医「国指定の難病の一つで、詳しいことが何もわからないんです。さらに双葉さんは・・・」

???「その話、聞かせていただきました!」ガララッ

56 : ◆VwJdgftwpk 19/06/01(土)00:05:56 ID:gEF

ありす「ラスムッセン脳炎、調べてみました。それによると、発病年齢は平均して9歳だとか。」

ありす「それに対して、杏さんは17歳。何かの間違いなんじゃないでしょうか。」

医「・・・彼女は?」

P「あ、ウチの子です・・・名前をありすと言います。」

医「ありすちゃん、ですか。ありすちゃん。非常に着眼点は良いです。この歳での症例はほとんど存在しません。極めて稀です。」

医「ですが、杏さんの発病には、ある特殊な状況があるのです。」

あ「・・・なんでしょうか?あと、私のことは橘と呼んでください。」

医「分かりました。橘さん、その特殊な状況とは、ズバリ“発育”です。」

57 : ◆VwJdgftwpk 19/06/01(土)00:09:07 ID:gEF

医「杏さんの身長は139cm、対して9歳女児の平均身長は133cmほど、10歳になると140cm程度・・・」

あ「あ・・・もしかして・・・」

医「はい。杏さんの肉体の成長は、どうやらその時期に停止してしまったらしく…」

あ「それが影響してしまっている、と・・・」

医「はい。私も俄かには信じがたいですが…そうと説明するほかありません。」

あ「そうでしたか・・・不躾なことをしてしまって、すみません。」

医「いえいえ、いいんですよ。」

58 : ◆VwJdgftwpk 19/06/01(土)00:12:30 ID:gEF

医「病状はかなり重いものです。ひとまず、これからは継続的な検査や治療のために入院していただきます。」

医「非常に貴重な症例ですので、学界でも多く研究がなされるかと思います。こちらも最善を尽くしますので、よろしくお願いいたします。」

P「はい・・・こちらこそ、どうもありがとうございました。」

医「いえいえ・・・」

59 : ◆VwJdgftwpk 19/06/01(土)00:16:43 ID:gEF

三人で診察室を後にする。

ロビーに戻ると、疲れたのか長椅子の上で眠ってしまったらしいきらりに、何者かによって優しく毛布が掛けられてあった。

Pと受付の看護師さんの目が合う。

彼女を起こして、今の杏の悲劇的状況を伝えるのが忍びない。

ここはしっかりと伝えるべきなんだろう。隠しておいてもいつかは白日の下にさらされる事実…

Pは膝から崩れ落ちた。一気に忍耐の堰が切れて、涙が止まらない。

ICUの妖精は、今頃何を思っているだろうか…?

65 : ◆VwJdgftwpk 19/06/01(土)23:45:02 ID:gEF

モノローグ


あの日から一日経って、杏にようやくすべてが伝えられた。

ラスムッセン脳炎。Rasmussen encephalitis syndrome. ラスムッセン・インセファライティス・シンドローム。

癲癇発作・片麻痺・知的障碍を主症状とした、自己免疫性の奇病。患者数、ごく僅か。罹患率はおよそ0.2~0.3/10万人/年。

不幸にも杏は「選ばれてしまった」んだ。

66 : ◆VwJdgftwpk 19/06/01(土)23:48:17 ID:gEF

杏の発症した型は、「小児期発症急速進行型」。

通常の発症年齢は生後2か月から9歳(平均4歳4か月)、まず17歳の杏がかかるような病気ではないらしい。

しかしそこは双葉杏、私の身体は丁度9歳ごろにはた、と成長を止めた。それが影響し、あり得ないようなことが起こっているらしい。

まったく、信じがたい話だよ。ホント。

67 : ◆VwJdgftwpk 19/06/01(土)23:51:41 ID:gEF

ICUから通常の個人病室に移されることになった杏は、今は車椅子に揺られている。乗り心地は・・・うん、悪くない。

馬に乗せられた王様気分。そう、金属と、布でできた、車輪の馬・・・

廊下を通ると、時折他の患者ともすれ違う。悲しい目、怒りに震える目、嘆く目、笑う目、空虚な目、死んだ目。

未来を見ているようで、杏は薄気味が悪かった。

68 : ◆VwJdgftwpk 19/06/01(土)23:54:14 ID:gEF

杏の部屋は、大きな窓がある病室。広い池が見える、花畑の病室。

吊り下がった沢山のコード、壁に空いた酸素チューブ用の栓、おしろいみたいにきれいなベッド、鳥の羽の掛布団。


今日からここが、


あんずのおうち。

69 : ◆VwJdgftwpk 19/06/01(土)23:57:34 ID:gEF




Pらが帰還し、事務所は大騒ぎである。

ひとまず診断書その他をちひろさんに渡し、アイドル達を集めて話を始める。部屋はパンパンだ。

P「救急搬送という報告を聞いて待っていてくれたアイドルも大勢いる中、この報告をするのは大変心が痛いですが…」

P「杏の病状は極めて重症かつ深刻です。」

70 : ◆VwJdgftwpk 19/06/02(日)00:01:15 ID:Vxh

息を呑む音があちらこちらから漏れる。

P「杏はラスムッセン脳炎という奇病に侵されているらしく、治療法は不明…」

P「主症状はてんかん、麻痺、知的障害・・・奇跡的に治療が成功しても、後遺症は免れない。」

タイルに一滴の涙が共鳴した後、嗚咽やすすり泣く声が響き始める。

P「こっ、これにより!双葉杏のアイドルとしての活動は、ぜっ、ぜつ、ぜつぼ・・・うああああああああああああ」

71 : ◆VwJdgftwpk 19/06/02(日)00:04:56 ID:Vxh

ついにダムが決壊し、事務所は歔欷の渦に包まれた。

P「なんでだよう、なんでだよ、くそ、くそう。なんで、なんで・・・おれは、俺は、クソ・・・」

Pのように自責の念に駆られるもの、悲しみに咽び泣くもの、ただただ立ち尽くすもの。数人はショックで気を失っている。

人一人の未来が消え去るとは、ああ、何と脆く儚いだろうか、運命は残酷である・・・

なんで。

なんでと言ってもしょうがないことだが、すべてはこの一言に集約されていた。

72 : ◆VwJdgftwpk 19/06/02(日)00:08:37 ID:Vxh

翌日。

P、心、ありす、きらりの3人が、杏の病室へとお見舞いに駆け付けた。

早くあなたに会いたい。早くあなたに会いたい。病棟は昼の1時。

双葉と書かれた病室の扉。待ち遠しい思いに高ぶる腕を抑えつつ、そっと引く。すると、そこには。

文庫本を片手に薄桃色の患者衣をまとった、幽玄の美少女がそっとこちらを見ていた。


空が青い。

77 : ◆VwJdgftwpk 19/06/02(日)23:19:21 ID:Vxh

モノローグ


・・・ひまだなあ。
ひまあああぁあぁあぁあぁあぁぁぁあ暇。超暇。生憎、携帯電話も今は無いし・・・ゲーム機だって当然の如くこの部屋には存在してない。
そりゃそうだ入院一日目なんだもん。何もないさ。何も・・・

78 : ◆VwJdgftwpk 19/06/02(日)23:22:44 ID:Vxh

いや、それは間違っている。ある。この部屋には一つだけある。備え付けの本棚に置いてあった一冊のじゅんぶ・・・んが・・・・・・く・・・・・・・・・

仕方がない。ひとまず今日はこれで暇をつぶすしかないよ。

あーあ、ゲームしたいなあ。面会時間になったらPが携帯持ってきてくんないかなあ。

・・・さみしいなあ。

アイドル…

したいなあ。

79 : ◆VwJdgftwpk 19/06/02(日)23:25:21 ID:Vxh




P「杏!」

P「あんず・・・?え…?え、おま、え・・・大丈夫なのか?」

杏「ふふ、大丈夫。いつもの杏だよ、プロデューサー。」

彼女はニヘラと笑って見せた。

80 : ◆VwJdgftwpk 19/06/02(日)23:29:03 ID:Vxh

心「よ、よかったあ・・・あんなことが起きたもんだから、杏ちゃんの身に何が起きたか心配で…急に文学少女になった、ってヤバいんじゃないかと思ったぞ・・・まったく☆」

杏「えへへ、心配することないよ。ね?」

柔らかな笑顔がまばゆい。絹にも似たカーテンが閉じられた病室で、Pは思わずその手で額に庇を作った。

杏「いやあ、三人が来るまで暇だったんだよ。その辺にあった小説を読んだり、ご飯を食べることしかやることがないからね。来てくれてうれしいよ。」

ありす「その、杏さん、発作の方の調子はどうなんでしょうか…?」

杏「ああ、うん。こうしてると時々親指が震えて、本が閉じちゃったりもするんだけど…ま、困ることも無いよ。杏は記憶力いいからね。うん。」

うん。うん。

たった二文字のその真意がなんとなくわかるような気がして、病室は不思議と冷たい。

切ない風が、窓の外で泣いている。溜池の水面が揺れて、魚がはねた。たぶん。

81 : ◆VwJdgftwpk 19/06/02(日)23:32:31 ID:Vxh

杏「それより、携帯とかいろいろ持ってきてくれた?」

きらり「ここにあるにぃ。杏ちゃん、これすっごく大事にしてるもんにぃ。はい!」

電池満タン、電源オンで手渡されたスマートフォンの壁紙は、きゃわうぃく彩られたあんきらツーショットだった。

杏「ちょっ・・・」

杏「・・・まあ、隠すようなもんでもないよね。これ、杏の宝物なんだ。ふふ。」

綺麗だ。

杏「しっかし、やっと戻ってきたかー。いやあ、退屈だったよ。とっても。ひとまずよろしく、ケータイくん。」

82 : ◆VwJdgftwpk 19/06/02(日)23:36:09 ID:Vxh

きらり「あっ、あとねえ・・・じゃーんっ!杏ちゃんのお洋服、もってきたよぉー!」

杏「!!ありがときらり!はあぁ、やっぱこれだよね。『働きたくない』。これがおちつくんだあ・・・あ、プロデューサーもいることだし、着替えは後からかな。」

P「おっと、すまない。」

杏「いいのいいの~」

ありす「プロデューサー。間違っても覗こうなんて考えちゃだめですよ。」キッ

心「そうだぞ~」ビンジョウ

P「わかった。わかった。怖いよ。ねえ。」

ありす「ふふ、冗談です…」

83 : ◆VwJdgftwpk 19/06/02(日)23:38:50 ID:Vxh

杏「・・・うん・・・・・・うん。ふふ・・・・・・はあ・・・うん。」

気が付くと、全員が同じ景色を見ていた。窓の外の青空。冬を越す灰色の渡り鳥。浮かぶ白い雲。彼らもまた、ここで長い時を耐えてから飛び立つのであろう。


ああ、私は、鳥になって飛んでいきたいよ。

88 : ◆VwJdgftwpk 19/06/03(月)23:46:56 ID:bN9

モノローグ


今年の二月も終わりそうだよ。

しんしんと降りだした雪が 僕らの思い出を包み込んでゆく・・・

どこかで耳にした、ちょっと季節外れなフレーズが、杏の耳に残る。

さようならを言うには、まだ早いかもしれないね。

89 : ◆VwJdgftwpk 19/06/03(月)23:50:02 ID:bN9

杏の病状は、どうやら着々と進みつつあるみたい。着々と。あり得ない速さで、しっかりと重く。

だってほら、見てよ。杏がこうして一人で脳内会話してるのも、手が働かないからだし。

「こえにだstttttttttttttt

ああほら。もう。ほら。

90 : ◆VwJdgftwpk 19/06/03(月)23:52:10 ID:bN9

病状が悪化していくと、どうも癲癇発作も収まりはするらしい。でも、そのあとに待っているものも杏は知っている。

知的障碍。かつてテレビのクイズ番組で一世を風靡した計算力とも、そのうちおさらばかな。

面白かったよ。頭脳君。じゃあね。そのうち。

91 : ◆VwJdgftwpk 19/06/03(月)23:55:27 ID:bN9

うーん、でもここまで来るとファンのみんなも心配になっちゃうなあ。

なんてったって、杏は売れっ子アイドル。

自画自賛だけど、実際事実。じじじじ。

かれこれ1か月は、表舞台に顔を出してないんだもん。いくら怠け者の杏とはいえ、そのうち騒ぎになることは目に見えてる…

今日、プロデューサーが来たら、ちょっと相談してみようかな。

92 : ◆VwJdgftwpk 19/06/03(月)23:58:12 ID:bN9



おじゃましまーす。

こなれた挨拶とともに杏ルームに入ってきたのは、Pだ。

今日は、後ろに葵、響子、雫を連れている。杏はメンバーを見て察した。

あ、料理じゃん。

93 : ◆VwJdgftwpk 19/06/04(火)00:02:18 ID:GB5

葵「おつかれ!杏ちゃん!今日はね、あたしと響子ちゃん、それに雫ちゃん!三人で、美味しい料理とスイーツ!作ってきたっちゃ!」

杏「ありがとう・・・!病院食美味しくないんだよ……!ありがとう・・・!」

杏(やばい。既にいい匂い。おなかが鳴りそ

グキュウゥゥゥ

鳴った。我慢できない。早く食べたい。」

響子「杏ちゃん、口に出ちゃってますよ。そんなに美味しいものに飢えてたんですねえ。」

雫「食に飢えると大変ですからねぇ~。では、早速葵ちゃんの持ってるタッパーから開けちゃいましょうか。」

葵「そうやね!それじゃあ御開帳…の前に、ちょっとレンジであっためなおすわぁ。」

ヴーン

杏「ん・・・これは、魚?」

葵「あったりー!さてさて中身は・・・」パカ

94 : ◆VwJdgftwpk 19/06/04(火)00:05:32 ID:GB5

『鯖の味噌煮』


杏「はわぁぁ・・・」

杏(やっば、超美味しそう。なにこれ。すっごい良い香りする。)

葵「ふふふ、どう?」

杏「どうって・・・杏、ジャンクフード以外がこんなに美味しそうに見えたのは初めてだよ。」

葵「ほんと!?嬉しいわぁ~!さ、食いよ食いよ~」

杏「ジュルリ・・・うん、いただきまーす!」

95 : ◆VwJdgftwpk 19/06/04(火)00:08:21 ID:GB5

食事中・・・


杏「おっいしかった・・・ごちそうさま。」

葵「そう言ってくれて何よりやわぁ。これからも作りに来るけんね!」

杏「ありがと。とっても嬉しい。」

響子「さあさあ、次は私の手料理ですよ!これはポットに入れてきたので温めなくても・・・じゃんっ!」パカ

96 : ◆VwJdgftwpk 19/06/04(火)00:11:20 ID:GB5

『ミネストローネ』


杏「いい匂い…トマトだ・・・」

響子「はいっ!イタリアの家庭料理です!と~っても、美味しいですよ!」

杏「もう待ちきれないや。いっただっきまーす!」


食事中・・・


杏「美味しかったぁ・・・あったまるねえ。」

響子「はい。まだまだ寒いので、あったかいスープもいいかなぁ、って!」

杏「うん、大正解だよ。冬はやっぱりこういうのだよね。」

97 : ◆VwJdgftwpk 19/06/04(火)00:14:30 ID:GB5

雫「あ、次は私でしょうか~?ちょっと待ってくださいねー。よいしょ、よいしょ・・・ふふ、これです~。」パカ


『クッキー』


杏「お、最後はお菓子?すっごい、気が利いてる。」

雫「うふふ、でしょう~?さぁさぁ、どうぞお召し上がれ~。」

杏「おっけー。いただきます。」パク


食事中・・・

98 : ◆VwJdgftwpk 19/06/04(火)00:18:46 ID:GB5

杏「なにこれ、すっごい。まろやかで超美味しい。」

雫「実はですね~このクッキー、おいかわ牧場の牛乳を使ってるんですよ~。」

杏「ああ、なるほど・・・道理でこんなに美味しいわけだよ。何枚でも行けちゃう。」

雫「ふふ、ありがとうございます~」


雫「ところで杏さん、さっきから左手しか使いませんねえ。杏さん、右利きだったような・・・?」

杏「ああ、これはね・・・杏の症状は主に右に現れちゃうんだ。手が震えて、料理を落としちゃったらいけないしね。」

雫「なるほど、そういうことだったんですか~。良くなるといいですねえ。」

杏「うん。そのうち発作は収まるって聞いたから。」

99 : ◆VwJdgftwpk 19/06/04(火)00:23:32 ID:GB5

杏「・・・あ、そういえばプロデューサー、 杏ちょっと相談したいんだよね。」

P「ん、なんだ?」

杏「いやさあ、杏の病気を公表するかしないかだよ。流石にこれ以上黙ったままなのもダメだと思うんだよね。」

P「う~ん、そうだなあ・・・単に療養と言えばいいだけの話かもしれないが、病名を公表するかってのも絡んでくるしなあ・・・」

P「よし、明日の会議でそれを議題に出す。自分も早いうちに決めておきたいと思ったことだしね。」

杏「ん、助かるよ。ファンのことも心配だしね。」

P「・・・杏は、どっちがいい?」

杏「どっちって・・・」

P「公表、するかしないか。」

杏「・・・・・・してほしいかな。」

P「そう・・・わかった。それも無いように組み込んどくわ。」

100 : ◆VwJdgftwpk 19/06/04(火)00:24:36 ID:GB5

濃い、濃い一日にカーテンを下すように、夜の街に雪が降る。

今年ももうちょっと、寒いかな。

105 : ◆VwJdgftwpk 19/06/04(火)23:31:28 ID:GB5

モノローグ


舞台は3月へと移り変わる。

春分の日。靖国の桜にも淡い色が付き始めて、テレビの向こうでは開花だ開花だとお祭りみたい。

休日の長閑な昼下がり、静かな町とは裏腹に、今日も画面の中のギョーカイは大忙し。

アイドル杏は、そんな忙しい日にもかかわらず、こうやって日々惰眠を貪っているんだけどさ…

さて、今日のファンレターは何枚なんだろうね?

106 : ◆VwJdgftwpk 19/06/04(火)23:35:12 ID:GB5




P「杏―、入るよー。」

杏「はーい。」

P「ういーす、おじゃまー。」

杏「やっほー・・・あれ、一人?珍しいね。いつもは誰か一緒なのに。」

P「うん。この時期はみんな忙しいからね。でもみんながさ。」


「杏ちゃんのために、Pだけでも行ってきてあげなよ!」


P「なんていうもんだからさ。みんな頑張ってくれてるみたいで、嬉しい。」

P「電話での応対とかもあるし、長くは居られないかもだけど・・・よろしくな。」

杏「ううん、いいの。ありがと。」

107 : ◆VwJdgftwpk 19/06/04(火)23:39:59 ID:GB5

杏「・・・で、今日もそのおっきい箱持ってんだねえ。

P「まあね。自分が来てない日も、ほかのアイドル達が持ってきてくれてたりしたみたいだし。」

杏「うん。そのやたらでっかいファンレターボックス。」

P「おう。しかしホントにデカいな。」

杏「まああの日から届いて止まないしねえ…初日はさぞ大変だっただろうねえ。」

P「ああそうだとも。通常の仕分け箱じゃとても入りきらなかったよ。」

杏「これで何箱目なんだろうね。大体20かな?」

P「そうだね。あの日からも、もうそれくらい経ったかな。」

108 : ◆VwJdgftwpk 19/06/04(火)23:45:20 ID:GB5

あの日。それは、双葉杏が初めて自身の病気を世間に向けて公表した日である。

当初プロダクションでは、詳細な病状の公表がなされない予定だった。

しかし杏の意向もあってか、病名、進行度合い、その他諸々についてが詳しく語られることとなった。

結果としてこれは、大成功であった。

大量のファンレターの仕分け、という業務への負担は増えたが、意外にも波風は立たずにすんなり事は受け入れられた。

週刊誌が妙なゴシップを嗅ぎつける前であったのが、幸運だったのだろう。怪しいうわさも立たずに済んだ。

そして今日も事務所には、膨大な量の応援メッセージがポストにひしめき合う。何と言ったって、ドームライブを成功させるレベルのトップアイドルだ。

こうなることは、ある意味分かり切ったことであった。

109 : ◆VwJdgftwpk 19/06/04(火)23:48:17 ID:GB5

杏「多いねえ。でも、これだけ杏が愛されてるってことだもんね。いやあ、アイドル冥利に尽きるよ。」

P「そうだねえ。プロデューサーとしても鼻が高いよ。」

Pが開き、読む。杏に渡され、杏も読む。

他愛もない会話と、この作業の繰り返し。だけど、二人にとってはこれがなにより楽しかった。

110 : ◆VwJdgftwpk 19/06/04(火)23:53:06 ID:GB5

P「・・・この箱一箱丸々ファンレターってすごいよな・・・」

杏「杏もそう思うよ・・・自分の人気が恐ろしくなるね。」

P「そしてこの量開き終わってアンチは何と0枚・・・マジかよ・・・」

杏「本当に、みんなに愛されてここまで来たんだよね。」

P「そうだね・・・」


P「そういえば、だいぶ発作が少なくなったね。」

杏「うん・・・そうだね。」

P「・・・大丈夫?」

杏「・・・覚悟は、出来てるよ。」

彼女は、悲壮な笑みを浮かべながら言った。

P「そう・・・」

111 : ◆VwJdgftwpk 19/06/04(火)23:57:02 ID:GB5

ふう。

いつの間にか、高いところまで来たんだなあ。この塔の上からは、思ってたよりも100倍いい景色がひろがってたよ。

下を見ると、まるでワタシのあの頃が見えるみたい。

ひえ~・・・

ここまで高いと、足がすくんじゃって動けないや。

117 : ◆VwJdgftwpk 19/06/06(木)23:22:38 ID:ePG

モノローグ


ここはどこですか?

あれはだれですか?

杏はだれでしょうね?

いきものですか。

へええええ。

118 : ◆VwJdgftwpk 19/06/06(木)23:23:27 ID:ePG

ん?

お?

杏?

うへは。

あはー。

119 : ◆VwJdgftwpk 19/06/06(木)23:27:06 ID:ePG




杏「わあああ。でたああああ。カミツキガメ。」

P「あ、杏・・・お前…」

四月、新しい年が始まる季節。杏の身に、予期していた最悪の事態が起きた。

知的障碍である。

120 : ◆VwJdgftwpk 19/06/06(木)23:31:18 ID:ePG

杏「げええ。ちかよるなよお。」

P「杏!杏!しっかりしろ!」

杏「あれ、プロデューサーじゃん。来てたの?」ケロッ

P「来てたのって・・・お前さっきまで俺の姿みてカミツキガメがどうのって騒いでたんだが…」

杏「・・・マジ?全然覚えてないんだけど・・・」

P「そうか・・・どうしたんかな…」

杏「そんなの杏もわかんないよ・・・」

121 : ◆VwJdgftwpk 19/06/06(木)23:34:25 ID:ePG

P「・・・なあ、最近てんかん発作は?」

杏「最近?最近はすっかり鳴りを潜めてるけど。」

P「もしかして、アレなのかな・・・」

杏「アレって?」

P「知的障碍。症状の進行につれててんかん発作は減っていき、やがて知的障害が現れるようになるって医者が言ってただろ。」

杏「そうかー。」

P「っそんな軽い問題じゃないだろう。」フッ

杏「そうかあ。・・・そうかああ・・・・・・」

122 : ◆VwJdgftwpk 19/06/06(木)23:38:16 ID:ePG

杏「いや・・・改めて自覚すると落ち込むよ。」

P「だよなあ。自分の脳がだんだん侵されていくってどんなんだろうな・・・俺にはわからない。」

杏「杏も、ついさっきまではっきりとした自覚なんてなかったよ。」

杏「この状態をまざまざと見せつけられて、たった今感じ取ったんだ。」

P「脳の病気、か・・・」

杏「脳の病気。脳炎。脳がダメになるって、よくよく考えたら相当重症だ。」

P「体が全部駄目になるって事と同じだもんな。」

杏「どうしよう。杏、まるっきり別の人になっちゃうのかな。脳が全部やられて、ただの動かない人形みたいになっちゃうのかな。」

P「・・・わかんない。」

123 : ◆VwJdgftwpk 19/06/06(木)23:42:30 ID:ePG

杏「ねえ、プロデューサー。」

P「・・・」

杏「こわい。」

P「杏・・・」

杏「杏、杏じゃなくなっちゃうの?杏はどこに行くの?自己同一性の危機だよ。」

杏「杏が杏じゃなくなったら、杏はどうなるの?」

P「安心して。心配しないでよ。杏が杏じゃなくなっても、杏は杏だから。」

杏「・・・杏は、杏でいられるかな?」

P「・・・どんな杏でも、大好きだから。だって、杏のファン第一号だから。絶対。」

P「絶対絶対、変わんないから!杏!」

杏「うう、プロデューサー、プロデューサー、杏・・・」

124 : ◆VwJdgftwpk 19/06/06(木)23:45:51 ID:ePG

その日は、結局夕べまで泣いていた。

寝台からPに抱き着いていた杏は、いつの間にか泣き疲れて寝息を立てている。

元の姿勢で寝かせるために、彼女の上半身をそっと擡げる。

ただでさえ軽い綿毛のような彼女が、猶のこと軽くなっているように感じた。

129 : ◆VwJdgftwpk 19/06/08(土)23:11:45 ID:q3F

モノローグ


きのう たくさん ひとがきた

あした たくさん ひとくるよ

いち、にい、たくさん。

いち、にい、たくさん。

130 : ◆VwJdgftwpk 19/06/08(土)23:15:04 ID:q3F

いちにち、ににち、たくさんにち。

いちがつ、にがつ、たくさんがつ。

いちねん、にねん、たくさんねん。

うふふ。

たのしいねえ。

131 : ◆VwJdgftwpk 19/06/08(土)23:19:23 ID:q3F

10


五月末日。

梅雨前のわずかな間続く、空気が乾いた晴れ模様。

美しく澄んだ空がどことなく不安に思え、町行く風には、永く暗い停滞の予兆を覚える。

この病室の中は、いつもと変わらず穏やかで、変わらない。物静かな空間に響くのは、少女の微笑む声。

その様相に思わず老獪の姿が重なる微睡みの妖精は、ひとり樹脂の壁を見つめている。

132 : ◆VwJdgftwpk 19/06/08(土)23:25:30 ID:q3F

木製の棚には、かつての栄光を切り取った写真や、思い出の一枚が並び立つ。

エンボス加工のビニル紙に掛けられている一際大きい額縁には、変なアイドルがいっぱい。

おしくらまんじゅうの如くにひしめき合った、にぎやかな集合写真だった。

ふぅ、とため息が漏れる。

彼女は、自分が何故いまのようなため息をついたか知る由もない。

その心はもはやここにあらず、少女の中枢は今なお刻々と病魔に蝕まれ続けている。

133 : ◆VwJdgftwpk 19/06/08(土)23:29:35 ID:q3F

ふいに膝が動き、尿瓶が揺れた。

カラリ。

P「お邪魔しまーす。」

杏「お・・・ようこそ。よくきたね。」

P「今日も杏を見舞いたいからね。できるだけ、毎日姿を見ておかないと心配だから。」

杏「そう、いつも、ありがとう、」

134 : ◆VwJdgftwpk 19/06/08(土)23:34:59 ID:q3F

P「今日はね、杏に果物持ってきたんだよ。」

杏「うん。」

P「これ。小さく切ってある。」

杏「ちいさくきってある。」

P「メロンだよ。」

杏「メロン。」

P「食べる?」

杏「食べる。」

135 : ◆VwJdgftwpk 19/06/08(土)23:38:57 ID:q3F

~食事中~


P「おいしかった?」

杏「うん、とっても、美味しかった。」

P「良かった。嬉しいよ」

杏「うれしいか。」

P「うん。杏、病院はどう?楽しい?」

杏「うん。たのしい。はは。」

P「そう。ふふ。」

杏「ふふ。」

136 : ◆VwJdgftwpk 19/06/08(土)23:42:50 ID:q3F

こうして今日もまた、静かに終わっていく。

そして明日が、また静かに始まる。

おなじいちにち、ちがういちにち、たのしいいちにち。

明日もステキな日に、なりますように。

141 : ◆VwJdgftwpk 19/06/11(火)22:54:49 ID:oWs

モノローグ


あんず がんばってます

あんず ぼう もってあるくよ

みぎあし うごかない ふべん

でも あるくこと やってます

りはびり といいます

142 : ◆VwJdgftwpk 19/06/11(火)22:57:28 ID:oWs

たくさんあるく つかれます

でも ひと たくさん くる

おはなし たのしい

つかれ とれます

まいにち がんばれます

ぶい。

えへへ。

あのひとの くちぐせです。

きょうも がんばるよ。

143 : ◆VwJdgftwpk 19/06/11(火)23:00:36 ID:oWs

11


7月の初めごろ。

Pが杏のもとに訪れると、病室に彼女は居ない。

知的障害、それに加えて片麻痺の症状までもが急激な悪化を見せた杏は、リハビリテーションに勤しんでいた。

手すりを持っての歩行、階段昇降、スロープ。投擲用の小さい球、低いハードル。

人間の運動の三大要素である、歩行・跳躍・投擲。現在、杏はそのうちの2つである歩行と跳躍が満足に行えない。

車いすから降り、ただ歩くだけ。常人にとっては「ただの」「だけ」と気にも留めないような日常動作にも難儀している状態だ。

144 : ◆VwJdgftwpk 19/06/11(火)23:02:44 ID:oWs

例えば一定距離の補助付き歩行に成功しよう。

その時の杏の笑顔はとても可愛らしい。ニカ、と歯茎を見せて微笑みかけてくれる。

如何なことが起きようとも、やはり彼女は美少女であることの証明なのであろう。睫毛に蛍光灯が煌めいて眩しい。

145 : ◆VwJdgftwpk 19/06/11(火)23:05:55 ID:oWs

しかしその笑顔は本物だろうか?


例えば。うん。例えば、だ。

彼女の精神はとうに病魔に蝕まれ切って、今までPや他アイドルたちが見てきた自我はどこにもないのかもしれない。

あるいは“自”も、“我”も、星の一片ほどすら残存していないのかもしれない。

物体としての杏はただ其処に佇むばかりの人形であり、中枢など消し飛んだ、偶にもぞりと蠢くだけの白痴の円筒であろうかと。

146 : ◆VwJdgftwpk 19/06/11(火)23:08:48 ID:oWs

ほら、君たちも見ただろう。

物覚えの良い鳥類のように、掛けられた言葉をそっくりそのまま発音するだけの彼女を。

アレは何という生き物だ。巨大な鸚鵡か。

痩せこけて、頬骨の飛び出た鸚鵡か。

片方の口尻をカタカタと振るわせて不気味に笑う、骸のような鸚鵡か。

147 : ◆VwJdgftwpk 19/06/11(火)23:11:43 ID:oWs


Pは仄かに疑念を持ち始めていた。


夏至過ぎの太陽にも、双葉杏の微笑みでさえも溶かしきれない、とても悲しいその疑念が。

杏のナカに居座って退かない彼奴と同じように、Pの脳内を蝕んでいく。

病室の白いベッドの横に、一葉の薄い栞が落ちていた。

152 : ◆VwJdgftwpk 19/06/15(土)00:00:09 ID:lni

モノローグ


んんつんん つんつんつ んんんつん つつ  

んんつんん つんつんつ んんんつん つつ  

んんつんん つんつんつ んんんつん つつ 


んんつつん つつんんつ つん  

んんつつん つつんんつ つん  

んんつつん つつんんつ つん

153 : ◆VwJdgftwpk 19/06/15(土)00:03:07 ID:lni

んんつんん つん つつんつつ つつ んつんんつ 

んんつつ つつんんつ つんつん つんつんん つつ つんんつん んつんつん つんんつん 

んんつんん んんつ つんつつ つつ つつんつつ つつん 

つつん んつつつん つつつん んんんん つつんつつ んんつんつ つんつつ 

つんつんん つつ んつんつつ つんつ つん つつんん んつんつ 

んんつんん んんつ つんつつ つつ つつんつつ つつん 


んんつんん んんつ つんつつ つつ つつんつつ つつん

154 : ◆VwJdgftwpk 19/06/15(土)00:06:43 ID:lni

12


8月の初週。

既に脳の大部分を侵されるまでに急速な病状の悪化を見せた杏。

チューブに繋がれて動かない彼女の横で、Pはもの悲し気にパイプ椅子に腰掛けている。

薄緑の酸素チューブが壁の穴から伸び、彼女の鼻腔へと静かに生命を送り込んでいる。

見開かれた瞼から覗く大きな栗色の瞳は、瞳孔を広く開け放して虚空にピントを合わせている。

155 : ◆VwJdgftwpk 19/06/15(土)00:09:41 ID:lni

P「杏・・・」

唇からゆっくりと音が紡ぎだされる。

P「・・・杏、なあ・・・」

言の葉が陽気な夏の風に乗って飛んでいく。

P「聞いてるか・・・杏・・・」

飛んでいって。

P「返事してくれよ・・・なあ・・・・・・」

窓の外まで流れていった。

156 : ◆VwJdgftwpk 19/06/15(土)00:12:22 ID:lni

Pは自責の念に駆られている。

この時気づいていれば。

その時分かってあげられたら。

P「あの時・・・はああああああああああああ。」

P「・・・クッソ・・・」

157 : ◆VwJdgftwpk 19/06/15(土)00:14:48 ID:lni

この、その、あの。言ったって仕方がない。

P「どうすりゃいいんだ・・・」

どうすりゃなんて言っても意味はない。

P「分かってるんだよ・・・!話しかけるなよ…」

158 : ◆VwJdgftwpk 19/06/15(土)00:18:07 ID:lni

決して他のアイドルの前では、こんな姿は見せられない。

Pがここまで弱い姿をさらけ出すのは、杏の病室だけだ。

それはきっと、ここが「弱い部屋」だからなのだろう。

いまにも折れてしまいそうな体の杏。

いまにも折れてしまいそうな心のP。

159 : ◆VwJdgftwpk 19/06/15(土)00:20:57 ID:lni

かけ離れていながらも似通っている二人が、互いの弱さを見せあえる場所。

まるで家のような・・・そんな場所。

こうすることで、Pの中身は寸前で崩壊を免れているのかもしれない。

今日もまた心の傷に絆創膏が貼られて、病室を立ち去ろうと椅子を立った。

160 : ◆VwJdgftwpk 19/06/15(土)00:24:13 ID:lni

???「あの・・・Pさん・・・」


P「ん?・・・ああ、まゆか。お疲れさま。」

まゆ「ありがとうございます。まゆも、杏ちゃんのお見舞いにきたんですよぉ。」

P「・・・その、いろいろと、ごめんね。」

まゆ「いえ、いいんです・・・まゆは、こんな時にまで嫉妬する人間じゃありませんから。」

P「そう・・・えらいな、まゆは。」

161 : ◆VwJdgftwpk 19/06/15(土)00:28:12 ID:lni

まゆ「褒めてくれてうれしいです・・・でも、当然のことですから。」

P「たとえ当然でも、だよ。強いな、まゆは。流石だ。」

P「・・・さて、そろそろお暇するよ。杏をよろしくな。」

まゆ「はぁい。わかりましたぁ・・・」トテテテ

P「・・・心強いな、ウチのアイドル達は。しっかり育ってくれて…」


あの日からPに、小さな勇気が宿り始めた。

そして今、それが大きく育とうとしている。

166 : ◆VwJdgftwpk 19/06/15(土)23:50:19 ID:lni

モノローグ


しあわせ でした。




167 : ◆VwJdgftwpk 19/06/15(土)23:53:02 ID:lni

13


9月1日。

やたらとこの部屋への出入りが多い今日は、杏にとっての盟友・諸星きらりの誕生日である。

本日、双葉杏の病室では、彼女の誕生日会が開催中。

明日の、杏自身の誕生日会とまたがって行われる、大型スケジュールだ。

辺りは、沢山の桔梗の花に彩られている。

168 : ◆VwJdgftwpk 19/06/15(土)23:57:54 ID:lni

「「「「「きらりちゃん、お誕生日おめでとーう!」」」」」

きらり「えへへ、うれしいにぃ☆きらりん18歳!車だって運転できちゃうよぉ☆」

美世「お!いいねぇ、車、車!運転、すっごく楽しいよ!免許取ったら、一緒に車買いに行こうっ!」

きらり「うれしいにぃ☆たのしみにしてるにぃ☆」

美波「それにしても、きらりちゃんが18歳かあ。私も1か月くらい前に20歳になったけど、やっぱり大人になるって実感湧いてこない?」

きらり「そうだにぃ。選挙にも行けるようになっちゃった!きらりんびっくり!」

みりあ「いーなー、きらりちゃん!みりあも早く大人になりたーい!みりあもなるー!」

きらり「うふふ、あと6年だね。でもぉ、6年なんてあっという間!みりあちゃんも、すぐになれるにぃ☆」

みりあ「ほんとぉ!やったーっ!みりあも早くおとなになるーっ!」

169 : ◆VwJdgftwpk 19/06/16(日)00:02:45 ID:xD4

きらり「そしてぇ・・・あしたは杏ちゃんの誕生日!今日たっくさんお祝いしてもらった分、きらりんもたくさんたーっくさん!お祝いしちゃうにぃ☆」

夕美「素敵なお花、選んであげるよっ。ねっ、凛ちゃん!」

凛「うん。私の家のイチオシ、持ってくるから。楽しみにしててね。」

凛「・・・そういえば、卯月は何かあるの?」

卯月「はいっ!かたたたき券です!」ブイッ

凛「なるほど・・・うん、とっても卯月らしいね。」

卯月「ちょ、ちょっとぉ~!どういう意味ですかぁ~!」

170 : ◆VwJdgftwpk 19/06/16(日)00:06:57 ID:xD4

茜「かたたたき券!いいですねえ、元気になること請け負いですっ!

裕子「わたしは特製スプーンを!とってもよく曲がりますよ!」

朋「あたしは、ぬいぐるみを持ってくるわ。海ちゃんにレッスンしてもらったの!青い鳥のリベンジよっ!」

由愛「私は、絵を描きました。とっても上手く出来たんです。」

みく「みくは、特製猫耳を誂えてきたにゃあ!絶対杏ちゃんに似合うから、楽しみにしててにゃあ!」

171 : ◆VwJdgftwpk 19/06/16(日)00:11:03 ID:xD4

きらり「うふふ、あしたはプレゼントいっぱいいーっぱいだにぃ☆杏ちゃん、とっても楽しみだね☆きらりんも、すーっごく楽しみ!」

きらり「きらりんおめでとう、杏ちゃんおめでとう!あんきらおめでとーっ!」

杏「・・・・・・・・・」

きらり「・・・・・・・・・」

172 : ◆VwJdgftwpk 19/06/16(日)00:14:37 ID:xD4

杏「ぁ・・・」

「「「「「!!!!!」」」」」

杏「ひ・・・ひやい・・・おえでひょ・・・ぁぃかほ・・・」

きらり「わぁーーっ!!杏ちゃん、喋ったにぃ!きらりんはぴはぴ!にゃっほーい!」

杏「・・・あんゆ・・・ぅえひ・・・ひやあへ・・・・・・」


杏「ありがと・・・」

173 : ◆VwJdgftwpk 19/06/16(日)00:17:14 ID:xD4

きらり「ありがと!!あんずちゃん、ありがとうにぃ!きらりんもありがとう!とーっても嬉しいにぃ!にょっわーっ☆」

美波「すっごーい!きっと奇跡よ!」

きらり「そうかもしれないにぃ!やったーっ!」

174 : ◆VwJdgftwpk 19/06/16(日)00:20:54 ID:xD4

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

空がゆっくりと橙色を帯びてきた。

きらり「それじゃあ、きらりん今日はこれでお家へ帰るにぃ。」

きらり「18歳の杏ちゃんに会えるのを楽しみにしてるにぃ!それじゃあ・・・」

きらり「杏ちゃん、また明日!」

175 : ◆VwJdgftwpk 19/06/16(日)00:24:45 ID:xD4

翌日朝。

双葉杏は、ベッドの上で帰らぬ人となっている所を発見された。

死亡推定時刻・・・・・・


9月1日、23時40分ごろ。

双葉杏、享年17歳。

176 : ◆VwJdgftwpk 19/06/16(日)00:28:25 ID:xD4

満開の桔梗に包まれて。

小さく美しい顔には、優しい微笑みを湛えながら。

安らかに、安らかに。寝息も立てずに眠って。

花瓶の中で一輪、純白のチューベローズだけが静かに揺れていた。

177 : ◆VwJdgftwpk 19/06/16(日)00:31:50 ID:xD4
終わりです。

20000字無いような短編ですが、自分のペースでゆっくり書かせていただきました。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。

178 : ◆VwJdgftwpk 19/06/16(日)00:33:17 ID:xD4
追伸
杏ちゃんの片麻痺は自分、知的障碍は祖母の臨床を参考にしています。



おーぷん2ちゃんねるに投稿されたスレッドの紹介です

元スレ: 【デレマスSS】いんせふぁらいてぃす・いん・わんだーあんずらいふ
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1558971620/


[ 2019/06/16 14:55 ] モバマスSS | TB(0) | CM(0)
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