2 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:21:56 ID:
BA8s88hk
梨子「会場はここね…」
今日は学校も、スクールアイドル部もお休み。
同じステージに立つピアニストが、どんな人なのか。
それを知るために沼津からここ、東京に、
私はもう一度やってきた。
夏の、ラブライブ予備予選の裏で開催されたコンクールで、
私は千歌ちゃん達と見つけ出したあの曲を演奏した。
その演奏が都の音楽団体の目に留まり、
今度開かれる『高校生によるピアノ演奏会』の
演奏者のひとりとして招かれることになった。
あと、もう15分程で開演になる。
すこし道に迷ったけど、間に合いそう。
東京都出身の、私と同じ2年生の彼は、両親共にピアニスト。
好きでやっていた私と、全く違う境遇の人。
3 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:22:26 ID:
BA8s88hk
今日はその両親のコンサートに、子息である彼も出演するのだ。
そんな彼の血統書付きの演奏を聴くことが、ちょっとだけ怖い。
受付から客席に向かうと、中は彼らの演奏を聴きにきた人でいっぱいで、チケットの番号を見なくても自分の席が分かった。
隣は…私と同じくらいの年の女の子。
おじさんや幼い子供じゃないことに内心、ほっとして着座する。
綺麗な髪を、くるっと頭の上で留めているその子は、
少し、退屈そうに見えた。
梨子(どうしたのかな… )
普段ならパンフレットを読んで、演奏を待つところが、
彼の演奏が怖いからか、隣の不思議な子が気になったからか、
私の視線はその子の方に向いていた。
4 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:23:05 ID:
BA8s88hk
ことり(はぁ~あ、つまんないなぁ…)
今日は、お母さんの付き添いでピアノを聴きに来てるの。
穂乃果ちゃんと海未ちゃん今頃、楽しいんだろうなぁ…
ことり(こんなに人がいっぱいのコンサートなのに、隣はずっと空いてる…来れなくなっちゃったのかな…)
そう思ってると、赤い髪の女の子がこっちの方に早足で向かって来た。
ことり(真姫ちゃん…? じゃないよね…このあたりでは見ない感じの子…)
ことり(でも、なんだろう…… あの子を見てると、穂乃果ちゃん達に会いたくなるような…)
やっぱり、帰っちゃだめかな…………
5 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:24:26 ID:
BA8s88hk
『ねぇ、お母さん、ことり、帰っちゃだめ…?』
『ダメよ、たまにはこういう音楽も良いものなのよ?』
『それに、穂乃果ちゃんの宿題は「私が見ます」って海未ちゃんが言ってたじゃない。』
『むぅ…私も行きたかったのに…』
梨子(本当に聴きたくて来てる訳じゃないんだ…)
『ほら、もう少しで始まるわよ』
『はぁ~い…』
親に逆らえず、退屈そうな彼女は、ささやかな抵抗か、母親から顔を背ける。私は咄嗟に目を反らそうとしたが、間に合わない。
ばつが悪そうな表情のまま私を見つめる隣の子に、その子の金色の瞳に、釘付けになってしまった。
梨子(…!)
盗み聞きしている事がバレたかもしれない…!
でも、ごまかし様はないし…
梨子「コ、コンサート、楽しみですね」
ぎこちなく、自然な言葉になるように努めて、話しかける。
『……………。』
6 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:25:35 ID:
BA8s88hk
焦る私を見る彼女は、さっきよりも断然面白そうで。
梨子「えっ、……あっ、その……」
『……ふふっ♪』ニコッ
梨子「……すみませんっ///」
『……………♪』ジーッ
梨子(なにやってるんだろう私…! )
楽しそうに微笑む目の前の女の子。
彼女に遊ばれているうちに、演奏に対する怖い気持ちはいつの間にか無くなっていた。
初対面なのに、こんなに気持ちが落ち着くなんて……
もしかして、小さい頃に私と会ったことがあるのかな……
ブーーーーーーー
梨子「もう、始まりますね」
『そうですね♪』
お決まりのアナウンスの後、幕が上がり、壇上のピアニストは一礼する。
今日のコンサートのトップバッターは、例の彼のようだ。隣を気にしつつも、私は彼の演奏を聴き入ることにした。
7 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:26:17 ID:
BA8s88hk
お母さんはすっかり演奏に夢中……。
確かに演奏は綺麗だけど、真姫ちゃんほど詳しくないから楽しめないし…
ことりにとっては、特に興味のない演奏。
このまま聴いていると、眠くなりそう…
そうだ♪ 隣の面白い子を見てみようっと。
右に目をやると、さっきまでのあたふたしていた時と違って、真剣に、落ち着いた顔で演奏を聴いていた。まるで、別人みたい…
ことり(目が、きらきらしてる…きっと音楽が好きなんだ)
ことり(どうしてかな…あの子のことが気になっちゃう)
何曲かの演奏が終わり、休憩時間に。
ことり「音楽、好きなんですか?」
『えぇ、はい…』
ことり(…? ちょっと、悲しそう…?)
ことり「…どうか、しましたか…?」
『ううん、なんでもないんです…』
ことり「そう…ですかぁ」
8 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:27:01 ID:
BA8s88hk
ことり(なんでもないはず、ないと思うけど… )
『実は…私もピアノを弾くんです』
ことり「そうなんですね♪ 部活動とかですか?」
『はい、趣味でもあるんですけどね』
『今度、さっきの男の子と同じコンサートに出ることになったんです。それで、どんな演奏をする人なのか、聴きにきていて…』
ことり「聴いてみて、どうでした…?」
『私よりも、上手…でした』
ことり(だから、悲しそうだったんだ…)
ことり「私、南ことり。高校2年生。あなたは?」
『桜内…梨子です。 同じ学年、だね』
ことり「よろしくね、梨子ちゃん♪」
梨子「うん、こちらこそ、ことりちゃん」
ことり(梨子ちゃんを見てると、力を貸してあげたくなる…ことりにはピアノは分からない…けど…)
ことり「梨子ちゃんのピアノも、聴いてみたいなぁ」
9 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:27:35 ID:
BA8s88hk
梨子「私のなんて… さっきの子に比べれば、全然……」
ことり「でも、おんなじステージに立つんだよね?」
梨子「うん…」
ことり「それなら、自信持って良いと思うよ♪同じくらい、すごいってことだもん」
梨子「ありがとう、ことりちゃん…」
ブザーの後、またピアノの演奏が始まった。
曲目がすべて終わり、拍手喝采の中、3人の演奏者が一礼する。
ことり(梨子ちゃん、また落ち込んでないかなぁ…)
休憩前よりは、暗くはなかったけど…不安そうな表情で湿った拍手を送っていた…。
『ことり、お母さんちょっと他の学校の理事長さん見つけたから、挨拶してくるわね。ロビーで待ってるのよ』
ことり「あ、うん」
ことり「梨子ちゃん、ロビーでことりとお話、しない?」
梨子「えっ…うん、いいよ」
10 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:28:19 ID:
BA8s88hk
もうピアノは鳴ってないのに。
梨子ちゃんの意識はまだステージの上に行ってたみたい…。
ことり「座ろう?あそこ、空いてるよ」
梨子「うん…」
また隣同士で座ったことりと梨子ちゃんだけど、
言葉が、うまく出てこない…
こんなに助けたいのに、どうして…?
自分の気持ちも整理がつかなくなっちゃって、ことりまでちょっと暗くなっちゃった…
梨子「それで、お話って…?」
ことり「えっ、と…その…」
精一杯目を泳がせても、答えは見つからなくて。
梨子「…………?」
ことり「梨子ちゃん、元気にならないかなって…」
ことり「励まそうと…したんだけどぉ……」
梨子「…!」
11 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:30:15 ID:
BA8s88hk
梨子「………………♪」ジーッ
ことり(えっ…!)
梨子「……ふふっ♪ありがと」
ことり「あっ……もぉ~…」
梨子「ごめんなさいね、私の都合で…、今日初めて会ったことりちゃんにまで心配かけて……」
ことり「ううん、いいの」
ことり「梨子ちゃん、元気、出た…?」
梨子「うんっ 今は、私も頑張らなきゃ って気持ちだよ」
ことり「よかったぁ~~」
ことり「ごめんね、ことり、なんだか梨子ちゃんのこと放っておけなくって…」
梨子「もう謝らないで……嬉しかったよ」
梨子「…そうだ、ねぇ、ことりちゃん」
ことり「なぁに?」
梨子「私達、小さい頃に会ってたり、してないかな…どこかで…」
12 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:30:55 ID:
BA8s88hk
ことり「…うーん…、ことりは、覚えてないなぁ…」
ことり「でも、梨子ちゃんは他人の気がしないの」
梨子「なにそれ?」クスッ
ことり「あー!笑った~! むぅ~」
梨子「ふふっ、なんだかおかしいね」
ことり「そうだね♪」
ことりが梨子ちゃんに元気づけられちゃった。
梨子ちゃんには笑われちゃったけど、
他人の気がしないのは本当。
梨子ちゃんも、そんな気がしてたのかな♪
ことり(梨子ちゃん…?)
梨子ちゃんの視線の先には…さっきの高校生ピアニストが。
梨子ちゃんを見つけて、手を振って、手招きしてる…
ことり「あの人、今度一緒に演奏する人だよね…?」
13 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:31:34 ID:
BA8s88hk
梨子「う、うん、呼ばれてるみたい。ちょっとごめんね」
ことり「うんっ」
彼の方へ小走りで向かっていく梨子ちゃん。
ことり(どんなことお話ししてるんだろう…大丈夫かな…)
少し緊張した様子だった梨子ちゃんは、ぺこぺこしながらもその人と話していて、時には笑顔になったり、驚いたような顔もしてた……謙遜してる様にも見えた。
ことり(きっと、今度の演奏会についてかな…)
彼がバイバイ、と手を小さく振ると、梨子ちゃんはまたぺこりとお辞儀して、こっちに戻ってきた。
梨子「おまたせ」
ことり「演奏会、うまくいきそう?」
梨子「うんっ! 思ってたより怖い人じゃなかったし、実は私の演奏も聴いたことがあるって……お互いに自信無くしてたみたい」
さっきよりも、断然明るい表情で話す梨子ちゃん。
ことり「そうだったんだ!良かったね 梨子ちゃん♪」
『ことり、ここに居たのね!』
ことり「あっ、お母さん」
14 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:32:13 ID:
BA8s88hk
『その子、お友達?』
ことり「うん、梨子ちゃんっていうの」
梨子「あっ、どうも…」
『うちのことりがごめんねぇ、ほら、ことり、行くわよ』
ことり「うんっ 梨子ちゃん、またね」
ことり「これ、アドレス。あとで梨子ちゃんのも教えてね♪」
梨子「メールするね! じゃあ、またね」
それから、お母さんとお家に帰ってきたの。
梨子ちゃん、まだかなぁ…
【Eメール受信中…】
ことり「メール、梨子ちゃんからだ」
ことり「…良かった。もう大丈夫みたい…」
ことり「今度、東京に来たら、言ってね、遊びに行こう っと」
【Eメール送信中…】
15 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:33:53 ID:
BA8s88hk
偶然出会った、不思議な友達、桜内梨子ちゃん。
悩んでいたことも解決しそうで、二人で笑いあって、
また、会う約束もした。今日は楽しかったな♪
でも、どうしてかな……
胸のあたりが、すこし痛むの…………
16 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:35:35 ID:
BA8s88hk
『はい、ワン、ツー、スリー…ことり、遅れてますよ!』
ことり「うんっ」
『海未、ちょっと止めて。』
『ことり、気分でも悪いの?』
ことり「なんともないよ、大丈夫、続けよう?」
『本当に大丈夫なわけ? 無理して続けられても迷惑だわ!』
『ちょっと、にこ…!』
『にこっち、言い過ぎやで…!』
ことり「ううん……いいの…ことり、邪魔だよね…今日はもう帰る…」
『あっ…』
『にこちゃん、反省しなさいよね…』
『何よ…私が悪いって言うの…?』
『だ、だれか……』
『かよちん、大丈夫にゃ……』
『みんな、やめやめ! 』
17 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:36:27 ID:
BA8s88hk
『穂乃果…』
『今は、そっとしておいてあげよう…?誰にだって、調子の悪いときはあるよ…!』
『穂乃果の言う通りです。にこ、あなたには後で話があります!』
『うっ… 分かったわよ、にこが悪かったわ…』
ことり(ことり、どうしちゃったんだろう…)
ことり(ぜんぜん、集中出来ないよ…みんなにも迷惑かけて… )
ヴーッ ヴーッ
【Eメール受信中…】
ことり「梨子ちゃんだ!」
梨子[今度の週末、また東京に行くよ。普段は頻繁にはこれないけど、主催者の団体が交通費を出してくれるから…
顔合わせと練習が夕方頃終わるんだけど、ことりちゃん、空いてる? 良かったら、ご飯食べに行かない?]
ことり(また梨子ちゃんに会える…)
ことり[またこっちに来るんだね 嬉しいなぁ♪ 空いてるよ! ことりがおすすめのおいしいお店に案内するね!]
【Eメール送信中…】
ことり(楽しみだなぁ…梨子ちゃん、元気にしてたかな…心配だよ…)
18 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:37:09 ID:
BA8s88hk
ことり「もう1通来てる、…にこちゃんだ」
[さっきは悪かったわね。また元気な姿見せなさいよ。]
ことり(にこちゃん…)
ことり[ことりもごめんなさい、明日はきっと大丈夫だから…]
ことり(まだ寝る時間じゃないけど…今日はもう寝ちゃおう…)
次の日、学校で授業を受けて、放課後の練習。
部室に入ってすぐ、にこちゃんに謝られたの…
ことりが、気にしてないよ って答えたら、
ちょっと安心したみたいで、にこちゃんもいつもの調子に戻って
練習の支度をしていた。
今日の練習はうまくいきそう♪
ことり(梨子ちゃんに明日会えるからかな…なんだか心が軽いの♪)
19 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:39:58 ID:
BA8s88hk
今日は梨子ちゃんとご飯に行く日。
今ことりは、練習が終わった梨子ちゃんと待ち合わせ。
ことり(梨子ちゃん、どんな食べ物が好きかな…)
梨子「ことりちゃーん、おまたせ」
ことり「梨子ちゃん!」
梨子「ごめんね、待たせたでしょ…」
ことり「ううん、それより、練習はうまくいった?」
梨子「うん、お陰様で。」
ことり「良かった♪ 梨子ちゃん、今日は何の気分?」
梨子「そうだなぁ…私、サンドイッチが好きなんだけど、良いお店知らない?」
ことり「心当たりあるよ! ここから電車でちょっと行くと…」
梨子ちゃんと電車に乗って、美味しいパンが評判のお店に向かうことに。
今度の演奏会では、出演者がそれぞれ曲を作って、自分で披露するってお話になってるんだって。
すごいなぁ…ことりには作曲なんてとても…
20 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:41:37 ID:
BA8s88hk
梨子「…美味しい!」
ことり「ふふっ、良かったぁ」
ことり「今度の演奏会、みんな自分で作曲した曲を披露するって言ってたけど、梨子ちゃんの曲はどう?」
梨子「うん、もう殆ど仕上がってるよ。そう、今日はその相談もしたかったんだ」
ことり「相談? ことりに出来ることなら何でも言ってね」
梨子「どうしても曲中に決められない部分があって、2パターンの候補があるんだけど、一緒に決めてほしいの…」
ことり(どうしよう、ことり、音楽のことなんて…)
梨子「ダメ…かな」
ことり「ううん! 聴いてみたい、ことりも一緒に考えるね」
梨子「ありがとう、じゃあ、まずこっちからね」
梨子ちゃんの音楽プレーヤーに繋がったイヤホンを両耳に着ける。
スイッチを押した瞬間、梨子ちゃんの優しいピアノの音が聞こえてきて、ついうっとりしちゃった。
梨子「どう…?」
ことり「うん…、綺麗で、整ってる感じがするね」
21 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:42:16 ID:
BA8s88hk
梨子「今度は、こっちを聴いてみて…」
出だしはもちろん最初の音源と一緒。
途中からは、さっきのよりも少し明るめで、
ふんわり柔らかそうなメロディ。
いつの間にか、ふたつの旋律の判断よりも、
音源から伝わる、梨子ちゃんの真剣さと、ピアノに対する気持ちに気を取られちゃって…つい聴き惚れてしまっていた。
梨子「どうだった? どっちがいいかなぁ」
真剣な梨子ちゃんにちゃんとした答えを出したい…。
コンサートのお客さんが好きそうなのはどっちかな…
梨子ちゃんが弾きやすいのは、どっちだろう…
曲のイメージに合うのはどっちになるかな…
…どう考えればいいか分かっても、ことりには知識が無くてダメ…
22 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:43:06 ID:
BA8s88hk
ことり(うーん… あ、そっか♪)
ことりが答えられるのは、今はこれしか無かった。
ことり「ことりは、後から聴いた方が好き♪」
梨子「ことりちゃんは、2つ目の方がいいのね…」
ことり「…?」
梨子「実はね、彼にも相談したんだけど、そっちは1つ目の方が良いって言ってるの…」
ことり(…ことりだけに相談してたんじゃ、ないんだ…)
梨子「うん、ありがとう 参考になったよ」
ことり「ごめんね、ことりはピアノやってないから、まともな意見じゃないかも…」
ことりなりに、好きな部分を感じて答えたのに、自信がなくなっちゃう… 梨子ちゃんも、1つ目の方が良いと思ってるのかな…
……………………今度は、はっきりと胸が痛かった。
23 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:45:25 ID:
BA8s88hk
レストランを出て、駅で梨子ちゃんをお見送り。
梨子「今日はありがとう。次会うときは、本番かな」
ことり「もうあと少しだもんね、応援してるよ♪」
梨子「うん!じゃあ、またね」
梨子ちゃんが改札の向こうに消えていく。
梨子ちゃん……ことりになんか聞かないで、その人だけに聞いた方が迷わなくていいのに……
久しぶりに梨子ちゃんに会えて、楽しかったはずなのに…
ひとりで歩く帰り道が、いつもより暗くて、冷たかった…
今日はついに、梨子ちゃんのステージ。
ことりは、今梨子ちゃんの控え室の方に向かっています。
梨子ちゃんの演奏がうまくいきますようにって、
おまじないをかけながら作った 桜色の髪飾り。
24 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:49:02 ID:
BA8s88hk
ピアノの演奏に相応しいような、派手すぎないで、
でもしっかりと主張のある、
梨子ちゃんにぴったりな髪飾り。
受け取ってくれるかな……
ことり(あれ…ドアが空いてる…)
『梨子ちゃーん!! ついに本番だね!!』
『緊張してるでありますか??』
『んもーぅ、今更梨子が緊張するわけナッシングでしょ?』
『そうよ!我がリトルデーモン、リリーには俗世の波動など届かぬわ!』
『東京って、すごいね…ルビィ達も招待客としてここまで来れちゃった…』
『大きな音楽団体なだけはあるね。今日は、私達がついてるからね!』
『いつもどおりやれば大丈夫ずら!』
ことり(梨子ちゃんが言ってた、友達が来てるんだ)
ことり(邪魔したら、悪いなぁ…)
25 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:51:02 ID:
BA8s88hk
ことり(でも、もう時間がないよ…)
『ほら、皆さん、もう梨子さんのスタンバイの時間が近付いてますわよ。 客席に向かいましょう?』
『じゃあね~梨子ちゃん、頑張ってね!』
女の子が8人、控え室から出てきて、私とすれ違った。
次はことりが部屋に入ろうとすると、中から梨子ちゃんが出てきた。
ことり「梨子ちゃん、おはよう」
梨子「おはよう、ことりちゃん」
ことり「梨子ちゃん、あのね…」
梨子「ごめんね、もう行かなきゃいけないの…」
ことり「あっ…うん…、頑張ってね!」
梨子「本当にごめんね…!」
26 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:51:45 ID:
BA8s88hk
ことりは、渡すことが出来なかった髪飾りを箱に入れたまま、鞄にしまって、客席へ向かった…
受付でパンフレットを貰って、ホールのドアを抜けると、中はお客さんでいっぱい。
ことりの席は、真ん中少し後ろの、ぽつんと開いた通路側の席。
どうして、こんなに悲しいの…?
ピアノはあの人に相談して、
友達の応援なら地元の人が控え室に来て、
そうした方が梨子ちゃんにとって良いことなんだ、って
分かってるつもりなのに……
27 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:52:28 ID:
BA8s88hk
ピアノも出来なくて、
知り合って半年にもならない私の励ましなんて…
梨子ちゃんには必要ないんだ…
なのに、なんでことりに曲のことを聞いたの…?
なんで、ことりに会いに来てくれたの…?
なんで、プレゼントを受け取ってくれなかったの…?
ことり、わかんないよ…
ブーーーーーー
会場にアナウンスが流れる。
28 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:54:26 ID:
BA8s88hk
今日のために、全国から有望な高校生ピアニストが集められたことや、主催者の挨拶などが伝えられる。
梨子ちゃん……あなたは、ううん、
ことりは、梨子ちゃんにとってなんなの……?
ことりは、ひとりで勝手に舞い上がってただけなの……?
梨子ちゃん、梨子ちゃん…………
『では、続いての演奏者です。』
『静岡県、浦の星女学院からお越しいただきました。桜内 梨子さんです。桜内さんは、先の東京におけるーー』
29 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:55:25 ID:
BA8s88hk
梨子ちゃん………教えてよ…………
『更に音楽活動を続けながらも、スクールーー』
ことり、梨子ちゃんのこと…………
『それでは、桜内梨子さん作曲、【小鳥】です。』
…!!
ことり(今、司会の人、なんて………!)
慌ててパンフレットを確認する。
梨子ちゃんの曲目は、【小鳥】…。
ことりが、ステージに目を向けると、
滲んだ照明の下に立つ梨子ちゃんが居て、
客席に向かって一礼して、顔を上げた。
30 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:56:50 ID:
BA8s88hk
ピアノに向かう前、梨子ちゃんがこっちを見たような気がした…
梨子ちゃんの指が動き、鍵盤に触れていく。
その音のひとつひとつは、とっても綺麗で、
今まで聴いたどんな曲よりも、ことりの耳に、
心に、優しく溶けていった。
涙が、とまらないの………
こんなに素敵な曲で、梨子ちゃんのステージなのに、
ことりは、溢れてくる涙を止められなくて…
聞こえてくる、ふんわり柔らかそうなメロディが、
ことりの心を包んでくれてるからかな……?
31 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:58:20 ID:
BA8s88hk
梨子ちゃんの指が、最後の鍵盤を鳴らして、
透き通った残響が静まったあと、
梨子ちゃんは立ち上がって、客席に向かってお辞儀をした。
鳴り止まない拍手の中、梨子ちゃんは堂々と降壇して行った。
司会が次のアナウンスをしている最中だったけど、
ことりは席を立って、ホールから出た。
たくさん泣いてたからかな、ドアの係の人はことりを通してくれて…
すこしでも早く、梨子ちゃんに会いたい。
梨子ちゃん、ありがとう って
ごめんね って… 伝えたい。
控え室のドアをノックすると、梨子ちゃんが開けてくれた。
中には、出番を終えた例のピアニストと、梨子ちゃんが居て、話をしている様子だった。
梨子ちゃんの演奏を、誉めてたのかな。梨子ちゃんは少し嬉しそうで、恥ずかしそうな顔をしていて…
32 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 22:59:25 ID:
BA8s88hk
ことり「梨子ちゃん、」
梨子「ことりちゃん…!? どうしたの…!?」
そうだ、 ことり、泣いてたんだった…
ことり「ありがとう…梨子ちゃん…」
ことり「ごめんね……」
梨子「ごめんねって…私、何もことりちゃんに嫌なことされてないよ?」
ことり「うっ、うう…」
気付かないうちに、彼は部屋から出ていて、控え室はことりと梨子ちゃんの二人きりになっていた。
ことり「梨子ちゃん……!」
梨子「ことりちゃん…?」
33 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 23:00:27 ID:
BA8s88hk
梨子「………………。」
ぎゅっ
ことり「………!!」
梨子「ごめんね、ことりちゃん」
ことり「りこちゃん…」
ことり「うぇぇ…」
梨子「どうして、泣いてるの…?」
ことり「わかんないの…涙が…とまらなくて…」
梨子「……そっか。」
梨子「そういえば、演奏前は、ごめんね」
34 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 23:01:30 ID:
BA8s88hk
梨子「なかなかみんな帰らなくってさ…ことりちゃん、来てくれないかなって、ずっと思ってたんだよ」
梨子「だから、ことりちゃんが来てくれて本当に嬉しかった」
梨子「あの時、何か手に持ってなかった…?」
ことり「もう、いいの」
梨子「もういい?」
ことり「うん……」
梨子「そうなの…? 本当のこと、教えて…?」
ことり「……実はね、ことり、梨子ちゃんのために…」
ことり「開けて…?」
鞄から綺麗に包装した小箱を取り出して、梨子ちゃんに渡す。
35 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 23:02:51 ID:
BA8s88hk
薄いピンク色のリボンを解いて、白い箱を開けて……
中身を見る梨子ちゃんの目は、潤んでいて……
桜の花を模した、可憐な髪飾りに、
雫が一滴、二滴と落ちる。
梨子「ことりちゃん……これ…」
ことり「うん…梨子ちゃんに似合うように、今日うまくいくように、ことりが作ってきたの…。」
梨子「…ありがとう……!」
梨子「…ごめんね……!」
今度は梨子ちゃんの涙がとまらなくなっちゃった。
ぎゅっ…
36 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 23:04:14 ID:
BA8s88hk
今日は、第2回の『高校生によるピアノ演奏会』。
梨子ちゃんは今回トップバッターを勤めるんだって。
梨子ちゃんが登壇してきて、お辞儀をした。
演奏、楽しみだなぁ…♪
綺麗な赤い髪に、桜色の髪飾りを添えた梨子ちゃん。
優しく構えた梨子ちゃんの指が、鍵盤に触れる。
おしまい
37 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/22(月) 23:08:06 ID:
BA8s88hk
楽しんで頂けたら幸いです
読んだあとにスクスタのキービジュアルを見に行くといいものが見れるかも
投稿もここでおしまい
38 :
以下、名無しが深夜にお送りします 2019/04/23(火) 20:19:23 ID:GviLToms
乙
元スレ:
梨子「ピアノの発表会」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1555939230/
ランティス (2019-05-29)
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