2 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)01:37:40 ID:
CKe
まゆは地元で運命の出会いをしました。
Pさん、アイドル事務所のプロデューサーさん。
まゆはすぐさま読モのお仕事を辞め、両親に許可を取りPさんの事務所の扉を叩きました。
そこまでは良かったんです、Pさんにも喜ばれ、まゆは晴れて事務所の一員となりました。
「それもこれも、まゆが初日にPさんの寮に押しかけたからでしょ?」
「……お礼言いたかったんですよぉ」
「違うわよねー?絶対違うわよねー?」
「…………ホントですよぉ」
そう、まゆはPさんへの高まる想いを伝えるべく、Pさんのいる寮まで行ったのです。
そして…………Pさんに物凄く叱られました。
3 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)01:38:18 ID:
CKe
なんで急に、とかここはマズイ、とか色々と慌てている声が聞こえていた気がしますが、
その時のまゆは頭が真っ白になって何を言われたのか覚えていませんでした。
真っ白のまま女子寮に連れていかれ、事の重大さを知ったのは翌日のこと。
まゆは会議室に呼ばれ、Pさんとこの人、お姉さんに物凄く叱られました。
『あのな、まゆ。スカウトの礼を言う、って言ってたけど一応あそこは独身寮なんだ、わかってくれるだろ?』
『スカウトしてすぐその女性がスカウトした男性の部屋に、とかね?ほら、わかるでしょ?』
『まゆの気持ちはすごく嬉しい。でも今回のダメだ。わかってくれ』
そう、宥めるように言うPさんと、咎めるようにいうお姉さんの言い方がまだ頭に残っています。
もし上にバレてたらまゆはクビな上、Pさんの進退も危なかったそうです
「女を連れ込むためにスカウトしたのか?」と言われたら返しようがないとかなんとか。
4 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)01:40:05 ID:
CKe
その場を諌めたのは『偶然』その場に居合わせたらしいお姉さん。
まゆの遠い親戚らしく、まゆと「一緒に」挨拶に行ったということにしたらしいです。
その縁でまゆはこの人のことを「お姉さん」と呼んでいます。身内アピールだそうです。
「ホント、危なかったんだからね?まゆもPさんも破滅しそうだったんだから!」
「何度も言わないでくださいよぉ、わかってますから」
「なーら、まゆもそう何回も溜め息吐いたり弱音を言わない!それに……」
そう、この話には続きがあるのです。
Pさんが直接プロデュースは無理、なら誰がまゆをプロデュースするかとなった時、白羽の矢が立ったのがお姉さんでした。
両親に確認したところ本当に遠縁の親戚らしく、身内なら安心して預けられる、とのことでした。
そして流れるようにまゆはお姉さんの元でアイドルをやることとなりました。
5 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)01:40:47 ID:
CKe
お姉さんはいい人、いい人なのですが……一つ、凄くまゆにとって大事なことがあるのです。
「ダメに決まってるでしょう?『アタシの彼氏』に言い寄る女を二人きりにするもんですか!」
そう、ニッコリと笑うお姉さんは、
まゆの運命の人の彼女さんなのでした。
6 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)01:42:28 ID:
CKe
「ねぇお姉さん」
「お、どうしたのまゆ、そんな不思議そうな顔して?」
「お姉さんはなんでアイドルじゃないんでしょう……」
「はぁ?」
お姉さん、もといお姉さんはいろんな意味で目立つ人です。
まゆより小さい、子供扱いされそうな背丈。
ふわっふわのウェーブがかかったロングヘアー(本人曰く手入れを怠るとわかめになるとのこと)。
若葉さんと意気投合しているらしいのですが、それくらいには子供っぽく見えます。
なのにぴっちりとスーツを着込んでパソコンを叩いている様は当たり前ですがものすごく目立つんです。
業界でも目立つらしく『そういう風に目立ちたくないんだけど』とよく愚痴っています。
だからこそ、それこそアイドルに向いてると前々から思っていました。
7 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)01:43:18 ID:
CKe
「だってアイドルやればPさん別れてくれるじゃないですかぁ」
「直球すぎでしょ。わーかーれーまーせーん」
「なんでですかぁ!華々しくデビューしてくださいよぉ!」
「今の仕事が楽しいんですー」
「いけますよぉ。ほら、そうすればPさんにプロデュースしてもらえるかもしれないですし」
そういうとお姉さんは考えるようにあごに手を当ててうんうん唸った後に、ため息。
足りない身長で何をするかと思えば腕を伸ばして、
「まゆん!」ぺちん
「しないっての、どーせ、一緒にあんたもプロデュースしてもらおうって魂胆でしょうが」
でこぴんです。これから撮影なのに額に跡がついたらどうするんですか。
つかないつかない、と言いながらも化粧箱を取り出す様はすごく手馴れています。
8 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)01:44:09 ID:
CKe
「だってPさんにプロデュースしてほしいんですよぉ」
「別の意味が見えるからきゃーっか!ホント、私の前じゃ全く隠しもしないんだから」
「お姉さんは事情知ってますからね」
「というか! 何? 私のプロデュースは不満なわけ?」
「そういうわけじゃないですけど……」
そんな与太話はいつものことで。
まゆの言葉にならよし!とニコッと笑うお姉さんはなんと言えばいいのか、パッションな感じです。
そのくせ、お仕事の電話が来たからと手を振って席を付くと凛とした真面目な顔になって、まゆのお仕事の話を始めるんです。
そう、まゆのプロデュースは真剣だからこそ困るんです。
これでまゆへのプロデュースが杜撰だったら、悪口の一つも言えたのに。
9 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)01:45:34 ID:
CKe
まゆはまだまだ新人です、けれど読モで多少は写真を撮られるのは慣れてます。
今日のお仕事は雑誌の撮影、カメラマンさんも読モ時代に会ったことがある方で気が楽でした。
「お疲れ様ー!まゆちゃん!相変わらず写真映りいいね、撮りやすかったよ!」
「ありがとうございました。またよろしくお願いします」
そう褒めてくれたカメラマンさんの言葉を頭の中に入れておきます。
理由は簡単、この後の楽しみのため。
今日のお仕事が終わればお姉さんからの、もといPさんとのご褒美が待っているからです。
Pさんと一緒にディナー。………お姉さん(彼女)付きで。
バレない程度に弾む足取りで歩いていると後ろから今回の撮影の監督さんが呼び止めて来ました。
10 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)01:47:24 ID:
CKe
「そうだ、まゆちゃん、この後お仕事の話があるんだけど、プロデューサーさん呼んでもらえるかな?」
「はぁい、すこし待っててもらってよろしいですか?」
「大丈夫だよ、奥の会議室にいるって言っておくれ」
なんという僥倖でしょう。
まゆは急いでエントランスまで向かい(さすがに走ってはいませんが)、並び会う二人を見るなり隠れました。
Pさんとお姉さんはくっつくわけでもなく、離れるわけでもない距離感を保ちながらまゆを待っています。
側からはわからないでしょうがまゆにはわかるのです。
二人の間のちょっぴり桃色な空気が。
………わかってしまうのがすこし悲しいですけど。
11 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)01:48:22 ID:
CKe
まゆは手を振って二人の元へ駆けていき、
「プロデューサーさぁん、監督さんが、まゆの次のお仕事の話がしたいそうです」
「え?あたし? あっちゃー、どうしよ?」
「仕方ないですねぇ、まゆとPさんの二人で先にお店に」
「だーめーに決まってんでしょうが!そうだ、まゆの次のお仕事ならまゆも同席してもらえば」
「嫌です」
「真顔!?」
嫌に決まってるじゃないですか。
そもそもPさんを一人待たせるなんてこと、できるわけがありません。
そのことがわかっているのか、お姉さんもぐぬぬぬと顔を顰めています。
12 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)01:49:35 ID:
CKe
するとPさんがお姉さんの肩を叩いて、
「いや、行ってこいよ。俺はまゆと近くで待ってるから。予約、まだなんだろ?」
「そうだけどさ? ……わかった、まゆ、ご褒美だからね!」
「はい!」
「うわぁ、撮影でも見たことないキラキラ笑顔」
「なるべく遅れて来てくださいねぇ」
「マッハで終わらせてくるわ!」
スーツ姿でハリウッド映画みたいな全力ダッシュで走っていくお姉さん。
周りもPさんも引いてますけど気にするそぶりすらありません。
Pさんはお姉さんが見えなくなるのを見た後、まゆに目線を向けて苦笑いしました。
13 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)01:52:20 ID:
CKe
「ははは……仲良いね、二人とも」
「『大好きなもの』が同じですから」
「直球だね、まゆ」
「せっかく二人きりですから、Pさんにはまゆのことを知って欲しくて」
「知ってるつもりなんだけどね……さて、行こうか。そこのカフェでいいよね?」
「はぁい」
Pさんが行く先をほんの少し付いていくように進んでいきます。
まだ、隣に立つのはダメ、手を取るのも。
ここはスタジオですし、人の目もあります。
そして何より、
Pさんの隣は、まだ、お姉さんのものです。
14 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)01:56:18 ID:
CKe
「それで、さっきの撮影。すごいカメラマンさんに褒められたんですよぉ」
「さすがは元読モだな、あの仕事を持って行ってよかった」
「え? 今回のお仕事Pさんが?」
「まぁな、俺の担当の子がやるはずだったんだが……ちょっと俺の不手際があってなぁ……まゆに代役を頼んじゃったんだ」
そうじゃなきゃここまで来ないさ、といった後、頭を下げるPさんにまゆは笑って返します。
だってPさんからのお仕事を完璧にこなせたんですから。
こんなに嬉しいことはありません。
二人で入ったカフェはそれとなく穴場のような場所で、まゆたち以外にお客さんがいません。
アイドルと二人きりだからな、とPさんは照れ臭そうしていました。
15 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)01:58:15 ID:
CKe
やはりそういったスキャンダルのようなことを避けているのでしょう。
実際、Pさんはまゆに対してすこし距離を置いている節があります。
それはまぁ、初日のことがありますし、新人アイドルが……なんてこともありますし。
…………ほんのちょっとだけ彼女さんのこともあると思いますけど。
「まゆにはやっぱりこういうお仕事が性に合ってる気がします……」
「だろうな、やりなれてるだろうし、まゆは要領がいいからな」
「……でもお姉さんが持ってくるお仕事はそういうお仕事は少なくて……」
「ダンスとか……歌とかかな? まゆはそういうのもできそうだからな」
お姉さんはどちらかと言えばまゆがしてこなかった仕事をいつも持ってきてくれます。
歌、ダンス、バラエティ番組にイベントの司会。
アイドルとしての露出が多いイベントで、間違いなくまゆが売れていくのにいいのですが。
元読モなこともあって、まゆはグラビアの仕事の方が要領よくこなせている自信がありました。
16 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:00:46 ID:
CKe
「まゆとしては得意なところから進めていきたいんですけど」
「まぁそうだよな。アイドルなんて右も左もわからないだろうし、やりなれた仕事からの方がまゆも気が楽か?」
「そうですねぇ、そうだ。Pさんならまゆをどうやってプロデュースするんですかぁ?」
「んー……そうだなぁ……ってダメダメ、アイツからその手の話題に乗るなって怒られたんだった」
担当変えてもらう口実にされるから、と手でバッテンを作るPさん。
聞けなかったのは少し残念ですが、それでもまゆの未来をPさんは楽しそうに語ってくれます。
スカウトしたからこそ、なんだと思いますけれど熱く語ってくれるのはまゆとしても嬉しいです。
それだけまゆのことをわかってくれている証拠なんですから。
ですが……。
17 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:01:50 ID:
CKe
「アイドルなんだし歌って踊ってナンボってもんだろ? アイツはそれをまゆに早く知って欲しいんじゃないかな?」
「それはわかるんですけど……お姉さん本当に色々なお仕事を持ってくるんですよぉ」
「ほら、あいつだってプロデューサーとしてまゆには成功してほしいって思ってるに違いないしな」
「そうですねぇ」
「それに、お仕事があるってすごいことなんだぞ? アイツがまゆのために営業頑張ってる証拠さ」
逐一アイドルのお仕事の話になるとお姉さんが出てきてしまうのがもやもやします。
いや、アイドルのお仕事は今やまゆとお姉さんでやってるわけですし、話を振ったのはまゆですし、
なんとも言えないのですけど。
18 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:04:17 ID:
CKe
「Pさぁん?」
「……あー、すまん一人でズラズラと。酷いよな。せっかく二人きりなのに」
「いいんですよぉ、まゆはPさんの話を聞くのも好きですから」
「でも、まゆの前で延々アイツの話なんて……ほんと空気読めてないよな俺」
そう言って項垂れるPさん。
そんなまゆを心配してくれるところもまゆは大好きです。
まゆはケーキセットのケーキをフォークでひとすくいしてPさんへ近づけて、
「いいんですよ、お姉さんはPさんの彼女さんなんですから」
突き出されたフォークを見つめながらPさんはすこし困ったような顔でまゆを見ます。
それでもまゆはフォークを降ろすことはありません。
19 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:05:25 ID:
CKe
すこしずつ、Pさんの口の方へ近づけて、
「大丈夫ですよぉ、まゆはPさんが大好きですから」
「彼女が……いてもか?」
「まゆの運命の人、彼女さんくらいじゃあきらめませんからねぇ」
フォークは近づく、あとPさんが口を開いてくれれば。
そう、あの人だって言ってきたんです。
『諦めないなら奪ってみせろ』って。
Pさんがお姉さんの彼女である限り、Pさんがまゆの知らないところで、届かなくなることなんてないんです。
だってお姉さんは、お姉さんはまゆのプロデューサーさんなんですから。
「ねぇ、Pさぁん。あーん?」
20 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:06:13 ID:
CKe
その声にPさんは口を開いて……
「さ、せ、る、わけないでしょ!」
「まゆん!?」ゴチン!
あと一歩のところで、まゆの後ろに来たお姉さんがまゆの頭にゲンコツを落としました。
一瞬視界が真っ白になり、手の感覚も外れます。
まゆが痛む頭を抑えて前を向くと、
「いや、何やってるの?」
「い、いや、零すのもマズイだろ?」
Pさんが咄嗟にまゆの手首を掴んで抑え、スプーンの先のケーキを食べていました。
つまりあーん成功です、成功です。
21 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:07:47 ID:
CKe
お姉さんは「あ゛ー!」と騒いだあと、隣のテーブルから椅子を持ってくるとPさんの隣にどかんと座って、
「……ほら早く食べる!もうすぐ予約の時間だわ!」
「ふふふ、あーん、ふふふ……」
「まーゆー!だからそういうのはダメだって言ってるでしょ!?」
「悔しいんですかぁ?」
「悔しいに決まってるでしょ!?」
そう言ってコーヒーだけを注文するお姉さん。
急かすようなことを言っておいて、待ってくれる気が見えるのはお姉さんらしいというか。
Pさんも謝りながらコーヒーを啜っています。
22 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:10:31 ID:
CKe
「Pさぁん、まゆケーキを一人で全部食べたら」
「アタシ糖分ほしいところだったのよね」
「Pさんにあーんするんです! お姉さんはこの後夕飯食べるじゃないですかぁ!」
「アンタもね! ったく……油断も隙も無いんだから……」
「まぁまぁ、そんな怒るなよ。まゆの頑張りに答えてやろう?」
「甘やかしたらアンタ吸い尽くされるわよ?」
ふふふ、これでまゆも一歩前進、ですねぇ。
まゆのあーん、を食べたことをお姉さんはギャーギャーと叫びながらPさんに詰め寄っています。
まぁPさんは身長が高い方ですのでタダでさえ小さいお姉さんと並ぶと親子のようで。
Pさんが上から抑えるようにお姉さんの頭を撫でるのをまゆはあーん、の余韻に浸りながら眺めていました。
23 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:11:33 ID:
CKe
「まゆ、あのね。落ち着いて聞いてね?」
その言葉から始まる情景は、今でも思い出せます。
あの日、まゆがPさんの寮室に行ったその翌日。
Pさんとお姉さんに叱責され、軽い放心状態になっていたまゆはその言葉を最初は受け入れられませんでした。
「私…………彼とお付き合いしてるのよ。既に」
あっけらかんと言われたその言葉は、お姉さんの軽い口調と裏腹にまゆの心に突き刺さりました。
偶然出会って、心を奪われた運命の人。
その人に既に好きな人がいて、もう結ばれてしまっている。
それはまゆの人生で初めての、そして一番の衝撃でした。
24 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:15:20 ID:
CKe
ただでさえ放心していた思考が、ぐるぐると目まぐるしく渦巻いて何も頭が纏まらなくて。
目の前の二人もまゆの反応を気にして不安そうな顔でこちらを見ています。
まゆはその時の顔はさぞ不安を煽るような顔だったのでしょう。
「そういった話を……話さなかったのは悪かったと思ってる」
「いや、スカウトの段階で話すわけないでしょ。まゆが特殊なだけよ」
スカウトした段階で相手目当てでやってくるなんて、思いもしなかったのでしょう。
Pさんもその時は申し訳なさそうに、そしてどうすればいいのかと困った顔でした。
まゆは考えて考えて、
「あの…………少しだけ、Pさんと二人きりで……話せませんか?」
その言葉だけを、絞り出しました。
25 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:18:17 ID:
CKe
「それで、まゆには……なんと! さらなる撮影の話が来ましたー!」
「ほんとか!? よかったなまゆ!」
「はぁい! Pさんからのお仕事、もっと頑張りますねぇ」
「いや、私が受けたお仕事だし私の仕事だけどね?」
「………半分くらいはPさんからのお仕事ですよねぇ?」
「まぁ、まぁ……そういうことでいいのかな?」
頭を掻くお姉さん、Pさんはそんなお姉さんを見て笑っています。
ディナーの席、まゆ達は丸テーブルにそれぞれ座って今日のことを話していました。
二人ともまゆのことを褒めちぎってきて、少しこそばゆい感じになりましたけど、楽しいディナーの時間です。
まゆもPさんもお姉さんもニコニコと食事を続けて、二人共大人ですから、まゆを前にお酒も注文し始めて。
26 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:19:24 ID:
CKe
そして、まゆは忘れていたのでした、大事なことを。
「Zzz……」
「Pさんお酒弱かったじゃないですかぁ! Pさん? Pさぁん!?」
「ハッハッハ! ざまーみろ!」
お姉さんも顔が真っ赤で、泥酔しているのがわかります。
ケラケラと笑いながらビールを飲む様はなんというか乙女とはほぼ遠いところ。
それにそもそも小さいのでなんというか危ない絵面。
とはいえ、眠ってしまったPさんを揺らしながら、お姉さんの思惑に歯噛みする。
だって今の言葉通りなら完全にわざとです。
Pさんがお酒で眠ってまゆと会話できないのがわかってて飲ませたわけです。
しかもまゆは未成年ですから、先に寮に帰らないといけません。
そうなった二人は酔っ払ったまま夜の街に消えていって……そ、そしたら。
「お姉さんのドスケベ!」
「何考えたの!? しないわよ! 妄想すんな未成年!」
27 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:20:16 ID:
CKe
「じゃあなんでお酒なんて飲ませたんですかぁ送り狼」
「だってもうご褒美はあげたでしょ? 今よりよっぽどいいやつを」
そういってちょっと不機嫌そうになるお姉さん。
そんなものいつもらいましたっ?と考えて、すぐさま
『まゆ、ご褒美だからね?』
そう、カフェです。
あの言葉の意味はそういうことだったのです。
……まぁ確かにお姉さん付きでディナーより幸せでしたけど。
でもそれはそれ、これはこれです。
28 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:22:30 ID:
CKe
「せっかくのまゆのお仕事祝いなのに……」
「あのね、アタシだってPと会話する時間を無駄にしてるんだからね?」
「しなくていいじゃないですかぁ! 3人仲良く話せばよかったじゃないですか!」
「…………そこはほら、お酒の魔力っていうか……」
「…………飲みたかったですねぇ?」
「だってまゆのことメッチャ褒められたんだもん」
……そういわれると言い返せません。
お姉さんもPさんもまゆのアイドル活動を全力を応援してくれているんです。
それがわかるからこそ、こうやってお仕事が成功する度にお祝いしてくれています。
小さな仕事でもなんでも、まゆの成功を心から喜んでくれていることがわかってしまうから。
だからお姉さんのことは嫌いになんてなれません。
29 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:23:18 ID:
CKe
とはいえ。
「えへへー、まーゆー、まゆはーえらいなー!」
「や、やめてくださいよお姉さん! というか二人ともそんな酔って……どうやって帰るんですか!」
「いーのいーの……タクシー代を……けーひで落としてやるー! あははー!」
酔うとまゆに絡んでくるのは慣れませんし、好きになれません。
あと『落ちませんよ』というちひろさんの言葉が目に浮かびます。
結局まゆはお姉さんたちを回収しに来たトレーナーさん達が来るまで、Pさんと結局寝てしまったお姉さんの寝顔を見ていました。
30 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:24:27 ID:
CKe
あの時、結局二人きり、というのは許されませんでした。
広い会議室の端で二人で話すだけ、でもお姉さんは会議室の反対側に。
そんな簡易的な隔離で、まゆはPさんと向かい合いました。
そして先に口火を切ったのは、Pさんでした。
「まゆ、隠していたことは悪かった。スカウトした時の君の言葉を真剣に受け取るべきだったと思う」
「いいえ、まゆが悪かったんです。結果的にPさんを苦しめることになるなんて」
言葉が詰まる。Pさんも言葉が浮かばないようで、互いに目線を合わせては逸らす。
31 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:28:57 ID:
CKe
だけど、まゆはその時、浮かんだ言葉がありました。
そして、それを聞かなければと口が走ったのです。
「あの…………Pさん。あの人のこと……好きなんですか?」
その言葉さほど大きくなくて、それでも、静かな会議室には響いてしまいます。
無論それがお姉さんに聞こえているのはわかりきっていました。
32 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:30:24 ID:
CKe
そしてそれはPさんもで、その質問に一瞬だけ反対側の彼女に目を向けた後、
「あぁ、好きだよ」
そう、言いました。
短くて、簡潔で、だからこそ、気持ちがありありとわかる声でした。
そしてまゆは、その気持ちが痛いほどにわかりました。
視界の端でお姉さんの嬉しそうなガッツポーズが見えたのは少しだけ不満でしたけど。
33 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:32:16 ID:
CKe
「だから、……まゆの気持ちには答えられない」
「…………はい」
「もし、まゆが辛いなら……えっと……」
言葉の先はわかっていました。
色恋目当てで事務所に来たのなら、アイドルを続ける理由がないのではないか。
そういう理解だったのでしょう。
実際その時のまゆは辞めてしまおうかと軽く考えてしまうほどには、混乱していたんです。
34 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:34:06 ID:
CKe
ですが。
「何、諦めるの? まゆ」
その言葉が、会議室の反対側から聞こえたその言葉が。
すっと、もやもやしていた頭に入ってきたんです。
それは挑戦的な、少し残念そうな、そして期待の籠った声。
「おい、何言ってるんだよ」
「今、アタシは、まゆに、聞いてるの」
つかつかと会議室を横断して、まゆの前に立つお姉さん。
私が座っているからか、顔を上げるとお姉さんから見下ろされて。
35 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:35:00 ID:
CKe
「ねえまゆ。 アンタのその『運命』ってやつは諦めていいものなの?」
そう、まゆの瞳を覗き込んでいました。
運命の人。一目で心を奪われた、好きだと言える人。
まだこの人のことなんてほとんど知りません。
彼女がいることだって知りませんでした。
だけど、だけど。でも。
「………………………好きです」
この想いは、軽くなんてないんです。
この想いは、捨てていいものではないんです。
諦めていいようなものでは、ないんです。
36 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:39:21 ID:
CKe
「まゆは……Pさんが好きです」
「で、しょうね。ならそのままでいいと思うわよ」
「いいん、ですか? まゆはPさんが好きで」
「ダメなわけないでしょ。あ、今回みたいな表立って行動するのはNGよ?」
嬉しそうに笑ってまゆの頭を撫でるお姉さん。
まゆは自分で口に出した言葉を噛み締めます。
そう、まゆはPさんが好きなんです。
……彼女がいても。
「まゆ、俺は……」
「いいの、アンタだって言ったでしょ。『アタシのことが好きだ』って」
「あぁそうだけど……」
「ならいいのよ。アンタはアタシのことを好きなまま、まゆに好かれてればいいじゃない」
「そういうわけにはいかないだろ。まゆに悪い」
Pさんは真面目な方ですから、不貞を勧めるのは良くないと考えるんでしょう。
でもお姉さんは全く意に介していない顔で、Pさんの頬を突きます
37 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:41:25 ID:
CKe
「別に表沙汰にならなきゃいいでしょうが。それとも何?まゆみたいな美少女に言い寄られるのが嫌?」
「……男としては嬉しいけど。それはまた違うだろ」
「同じよ。アンタがまゆになびいて浮気しなきゃいいだけでしょ? 自信ない?」
「その言い方は卑怯だろ。まゆ、気にしなくていい。あのな……」
「それに、わざわざ東京まで来てくれたのに帰せないでしょうが、こんなダイヤの原石、捨てる気?」
「それとこれとは話が別だろ? た、確かにまゆにはアイドルをやってほしいけど」
Pさんとお姉さんのやり取り、Pさんがまゆを心配して声をかけてくれます。
ですけど、その時にはもう、まゆの心は決まっていました。
「Pさぁん、これからよろしくお願いしますねぇ」
「アイドル……続けてくれるのか?」
「はい、まゆはアイドルとして、一緒に頑張りたいです」
まぁこの後Pさんにプロデュースしてもらえないとは思っていませんでしたけれど。
38 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:42:28 ID:
CKe
その言葉にPさんとお姉さんが嬉しそうに笑いました。
そしてまゆは、そのままPさんの手を取って、
「これからまゆのこと、色々知ってください。Pさんのことも……色々教えてくださいね?」
そう、笑顔で返したのでした。
Pさんは驚いて、お姉さんは苦笑して、
「安心なさい、アイドルやってる限り、アンタの『運命の人』は遠くにいきゃしないし、アタシがいかせないわ」
その言葉は、まゆをアイドルへ進ませるのに十分な理由でした。
39 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:44:32 ID:
CKe
「ねぇお姉さん?」
「何? どうしたのよまゆ。お仕事の話?」
「違うんです。えっと」
時間戻ってディナーの翌日。
二日酔いも残らず元気に仕事をしているお姉さんに、まゆは声をかけました。
最初の日のことを思い出したから。あの時に聞かなかったことを思い出したから。
「何、まだあの時のこと引きずってんの? フ、ラ、レ、た、こと!」
「フラれてないです」
「えー、思いには答えられない、って振る文句の定番よねー」
「……えっと、お姉さんって」
「もし、Pさんがまゆのことを好きになったら、どうするんですかぁ?」
40 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:46:36 ID:
CKe
まゆがそれを聞くと、お姉さんは悩むそぶりも見せずに笑顔で
「簡単な話でしょ? そしたら今度は私がまゆからアイツを奪うわよ」
単純な話でしょ?と笑うお姉さん。
その顔は自信満々で、嫌そうな顔は全くなくて。
まゆもつい釣られて笑ってしまいました。
「お姉さんらしいですね」
「というか、私もまゆと同じ。『運命の人』を渡すわけないでしょ」
アイツも同じこと聞くのよね、と不思議そうな顔をするお姉さん。
お姉さんのPさんが好きな気持ちだって本気だから。
それは今までの二人を見ていればわかるんです。
だからこそ、まゆもアタックしてるんですから。
41 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:48:06 ID:
CKe
「でも、お姉さんとしてはライバルはいないほうがいいんじゃないですかぁ?」
「まぁそう言われちゃそうなんだけどね……でもほら、言うじゃない」
ペンをくるくると回しながらお姉さんは仕事の紙を見ながら。
「『恋する女の子は可愛い』って。アイドルとして、まゆの魅力の一つだと思ってるからね、そこも含めて」
だから、ねと持ってきて見せたのはバレンタインのお仕事。
アイドルがチョコレートを作る様子を撮影する、とのこと。
「こういうお仕事も、いいでしょ?」
「ふふっ、この作ったチョコレートはPさんにあげていいんですかぁ?」
「ま、スタッフさんとかに相談してからね。1個くらいならバレないでしょ」
クスクスと笑うお姉さん。
まゆはお仕事の内容を見ながらお仕事とその後のPさんとの逢瀬に胸が膨らみます。
Pさんはチョコを受け取ってくれるでしょうか。
受け取ってくれるはずです。まゆの想いも全部。
42 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:50:38 ID:
CKe
「ま、私は当日に渡すけどね、立派なやつ」
「お姉さんお菓子作りできましたっけ?」
「…………まゆ教えて?」
まぁそこにお姉さんがいるのはわかっているのですけど。
お願い、と手を合わせるお姉さんに日程を聞きながら、まゆはこの後の日々に思いをはせるのでした。
まゆのプロデューサーさんは女性の方です。
まゆより小さい、中学生くらいに間違われそうな女性のプロデューサーさんです。
まゆの運命の人の彼女さんで。
まゆのことが大好きな親戚のお姉さんで。
そして、まゆのライバルで。
まゆのことを、ある意味一番、わかってる人です。
おわり
43 :
名無しさん@おーぷん 2019/02/03(日)02:58:19 ID:
CKe
某所からいただいた「まゆの担当Pはまゆの好きなPの彼女」というネタでした。
Pの色が濃くなりすぎた気がしないでもないです。
とはいえこういう妄想も楽しいものです。Pに個性が強すぎると1次でええやんになりかねませんが。
依頼出してきます。
おーぷん2ちゃんねるに投稿されたスレッドの紹介です
元スレ:
まゆ「まゆの運命の人とプロデューサー」
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1549125337/