2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:01:46.19 ID:
pZ0kk8uso
P「貴音、いるかな?」
貴音「はい、あなた様」
とつぜん男の傍らに滲み出たのは、まだ娘さんとでもいうべき年齢の、
ふわふわと長い髪を波うたせたうつくしい女でした。
P「やっぱり貴音ならどこにでも出てこられるね」
貴音「謹んでどやあ、と申し上げます。ところでここは?」
P「きっと、夢の中だと思う」
貴音「面妖な」
P「まったくだ。君のかな?」
貴音「わかりません。あなた様のでは?」
P「俺の夢ならもっとうるさくてギスギスしているよ」
貴音「ふふっ。わたくしの夢ならあたりに食べ物がございましょう」
P「なるほど。俺たちじゃないなら、俺たちが知る他の誰かか」
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:03:30.63 ID:
pZ0kk8uso
男女は黙ってあたりを見回していました。
焦っている様子はちっとも見られませんでした。
貴音「穏やかで、静かで、美しく、白い」
P「そうだな、雪歩だ」
貴音「左様でございますね」
男が伸びをして深く息を吸い込みました。
P「どう考えても雪歩だ。とても落ち着く」
貴音「ええ。……あなた様?」
P「うん?」
貴音「さいきん雪歩は伸び悩んでいるように見受けます」
P「君たちが心配することじゃない……
と普段なら言うところだけど、ここは夢だしな。当たりだよ」
男が少し寂しそうな顔をすると、白くほのかに輝く世界では、
はっとするほどに老け込んで見えるのでした。
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:05:04.07 ID:
pZ0kk8uso
P「新規の案件は来てるんだ。みんなと比べても悪くない。
だけどリピートが減ってきた」
貴音「りぴいと……でございますか」
P「俺が前に言ったプロの条件、覚えてるか?」
貴音「はい……もう一度頼みたいと思わせる仕事をするのが
ぷろふぇっしょなるであると」
P「そう。払った金以上のものを与える、クライアントの期待を
良い方に裏切るのがプロの仕事だと俺は思っているし
みんなにもそうなってもらいたい。
重ねた満足が次の仕事を呼び、君たちにも自信を深める。
雪歩はもともとはリピート率こそ強みだったんだけど」
貴音「そうですか……」
P「あ、雪歩は悪くない。雪歩はよくやってくれてる」
貴音「ふふっ。私たちもほとんど皆、わかっておりますよ」
P「全員じゃないのかな」
貴音「ですから、雪歩が」
女の声が雪に染み込むと、あとには完全な無音だけが残りました。
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:06:31.68 ID:
pZ0kk8uso
女はしゃがんで足下の雪をあつめ、雪玉を2つ作りました。
1つをあらぬ方向に投げ、雪に穿たれたあとを見て童女のように笑いました。
それからもう1つの雪玉を手にして男の背をじっと見つめました。
女が苦笑して雪玉を足元に捨てた時、ずいぶんと久しぶりに男は口を開きました。
P「雪歩を探す。ついてきてくれるかな?」
貴音「はい」
P「怖くないのか」
貴音「ちっとも」
P「俺は、怖いよ。
雪歩は本当によくやってるんだ。
結果がついてこないのはスタッフ、つまり俺のせいだ。
あいつの夢の中で俺はいったいどんなめに遭うんだろ」
貴音「ここがまことに雪歩の夢ならば、あなた様の隣りより安全な場所はありません。
わたくしはそう思います」
男は答えず、一方を向いていました。
白と青の世界に染み出したように、松の並木がありました。
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:08:15.42 ID:
pZ0kk8uso
貴音「面妖な」
P「何が?」
貴音「あのような並木など先ほどまでありましたか?」
P「ああ、なかったよ。
けれど俺たちには雪歩を探す手がかりが必要だ。
なら用意してくれるだろう」
貴音「驚かないのですか」
P「呼んだ客を放り出しておくような子じゃない。
しかしあの先か。遠いね」
男女は雪の中を歩き始めました。
日の光が照り返り、寒さは感じませんでした。
近くで見たら、並木の間隔は思った以上にひらけていました。
松それ自体が巨きく、そのため見誤ったのでした。
太い幹の列をたどりながら、立ち止まったのは女でした。
貴音「面妖な」
P「今度はどうした?」
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:09:40.86 ID:
pZ0kk8uso
貴音「わたくしたちが近寄ると、松の姿が変わるようです」
言われて男はいちばん近くの幹を見つめました。
ひき肌も荒々しく重厚な松でした。
ふと、この夢のあるじである少女には似合わないと思いました。
続いて二本先の松に目をこらしました。
その姿はまるで電波が不安定なテレビの画面のようにざわついて、
時折苦しげに歪んでいました。
更にその先の一本に目をやると、それは穏やかに、日に照らされて霞んでいました。
日の当たる肌は雪景色と溶け合うかのよう、
古い古い水墨画を見ている心地といえばよいのでしょうか。
P「貴音」
貴音「はい」
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:10:48.31 ID:
pZ0kk8uso
P「二本先の松はどう見える?」
貴音「苦しげに乱れています」
P「三本先の松は」
貴音「はっきりと。ですがとてもしんぷるに。
とても愛らしく。……とても雪歩らしく」
P「ずばりと言ったね。
たとえ子どもでも女は女だ。残酷だ」
貴音「言葉に依らなければむごくあれないむすめ子は、
殿方にくらべればかわいいものだと申す者がおりました」
P「うまいことを言う人だな」
貴音「あと、わたくしは子どもではございません。訂正してください」
P「あ、そうだったのか。最近は子どもの定義が変わったのか。
それは知らなかった。謝るよ。ごめん」
貴音「いけずです……」
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:12:24.96 ID:
pZ0kk8uso
P「夢の中だもの。
さて。俺はここで止まっているから二本目の松まで行ってくれないか」
貴音「はい」
言われて女は松に向けて走り出しました。
すねの中ほどまでが埋まる雪を味わうように。長い髪が揺れました。
女がすっきりと立つ傍らで松がのたうつ有り様は、
夢の中といってもなお戸惑いを与えるものでした。
P「すぐそばにいる貴音にもかすんで、ねじけて見えるのかな?」
貴音「はい」
P「そこで待ってて。今度は俺がそっちに行く」
そう言うと、男はその松を見ながら近づきました。
距離が縮まるにつれて松のかすれは大きくなり、苦しげにも見え、
ひときわ震えると堅固で重厚なひき肌に姿を変えました。
P「つまり」
男はつぶやき、女は名残惜しげに松の肌を撫でていました。
P「俺の近くにあるものは姿を変えるんだな。
ここは雪歩の夢だ。
けれど、あの子は俺の周りだけ俺に合わせている」
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:13:37.49 ID:
pZ0kk8uso
貴音「あなた様の意に添おうというのでしょう。
まこと、雪歩らしいいじらしさかと」
P「そんな姿をファンは見たくないよ。
俺だっていやだ。
こんな卑屈さを貴音は気づいていたか?」
貴音「雪歩がどうと言うのではありません。
あなた様は皆にとって最初のおーでぃえんすです。
まずあなた様に認めてもらいたい、
というのは無理もないことかと」
P「君らが俺の評価を気にしていたとは思わなかったよ。
みんなもう好き勝手やってくれてるからね」
貴音「ふふ。喜ばせたくても自分は変えられませんから」
P「でも雪歩は変えた」
貴音「はい」
P「叱られたくないあまりに自分を殺したのか。
それほど萎縮させていたのに気づかなかったんだね、俺は」
女はつと手を上げて男の背に触れようとし、しかしそのまま手を下ろしました。
貴音「……恐れてではないでしょう」
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:15:14.50 ID:
pZ0kk8uso
P「なんでも同じだよ。でも今は雪歩を探そう。
夢に俺を招いたからには、あいつも何とかしたいんだと思う」
貴音「あなた様! あれを」
女の驚きの理由は明らかでした。
二人を導いていた松はもうどこにもなく、
なだらかな雪の坂を下った先、
女の指は小さなあずま家を示していたからです。
P「なるほど、あの中か。
なら貴音はもう醒めてくれ。あとは一人で行くから」
貴音「そんな、わたくしも」
P「勝手だけどごめん。
俺がこれからする話は雪歩の針路に関わることなんだ。
貴音だったら他の子にいてもらいたい?」
貴音「……雪歩のことよろしくお願いいたします」
P「任せなさい。貴音が醒めてもこの記憶があったら、
俺と雪歩をなるべく起こさないようにしてくれないか。
夢は一瞬のはずだけど、自然に目覚めたほうがいいと思うし」
貴音「はい」
P「ここまでついてきてくれてありがとうな」
滲んで消えた女を見送って、男は丘を下ってゆきました。
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:16:15.43 ID:
pZ0kk8uso
男はあずま家から少し離れたところで立ち止まりました。
それは先ほどの松の並木の三本ぶんの距離でした。
男はしばらくあずま家を眺めていました。
白塗りのしっくいと檜皮をふいた屋根。
その可愛らしい建物をどう考えているのか、よそからでは窺うことはできませんでした。
男は一つ頭を振ると近づいて行きました。
一歩ごとに、あずま家の輪郭が乱れ身悶えているようでした。
P「入っていいか? 雪歩」
男はドアをノックしました。
なぜノックしたのか?
そこにあるのはあずま家ではなく、
プレハブの小さな家だったからです。
戸ではなくドアだったからです。
男が近づいたことで姿を変えたからです。
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:17:18.83 ID:
pZ0kk8uso
雪歩「は、はいぃ」
ドアを開けるとエアコンで温められた空気が流れ出してきました。
背後の雪を溶かすほどの勢いでした。
部屋の中にはテーブルとソファ、
その二つに挟まれるように少女が一人正座をしていました。
P「それ、コーヒーか」
男は少女の手元を見て言いました。
正座する少女が両手をそっと添えているのは、
ぶ厚いガラスのカフェオレボウルでした。
雪歩「あ、え、は、はい。プロデューサーが来るような気がして」
P「抹茶を立てるようにコーヒーを入れるんだね、雪歩は」
雪歩「あ、え、えと、癖ですから」
P「邪魔するよ。……なら抹茶を出してくれたらいい」
男は正座する少女の向かいにあぐらをかきました。
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:18:46.89 ID:
pZ0kk8uso
雪歩「でもプロデューサーはコーヒーが好きって」
P「この部屋もそうだ。
小さな洋間にせせこましくソファとテーブルを並べて埋まってる。
この間取りなら茶室で茶の道具だけで良かったんじゃないか」
雪歩「え? もしかして、プロデューサーは
そういうのがお好きだったんですか………?」
カフェオレボウルが、テーブルとソファが、部屋の中にあるもの全てが、
部屋自体が乱れて震えました。
P「いや、こういうやり方は意味がないね。悪い」
ゆがみは何事もなかったようにもとに戻りました。
雪歩「え?」
P「まじめな話をしていいかな?」
雪歩「え? あ、はい!」
P「成績の話だ」
そう聞くと少女は居心地悪そうに身をすくめました。
エアコンがごうとひときわ強くうなりを上げました。
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:19:30.27 ID:
pZ0kk8uso
P「毎日忙しくて気づいていないとは思うが、このところ思わしくない」
雪歩「ううっ、私、ダメダメですから」
P「それならこんなに悩まない。雪歩はよくやってる。悪いのは俺だ」
雪歩「プロデューサーは悪くありません!」
P「ありがとう。
でもいま期待したような成果を出せていないことは事実だし、
そのためにはまず分析をしないといけない。
犯人探しじゃない。問題探しだ。わかるか?」
雪歩「は、はい」
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:20:55.13 ID:
pZ0kk8uso
P「いま俺たちがいるのが夢だって気づいているかな」
雪歩「え? そうなんですか?」
P「お前はほんの少し前までこじんまりとした茶室にいた。違う?」
雪歩「は、はい。
お外を見ながらお茶を飲もうかと思って」
P「だがいまはこんな部屋になってる」
雪歩「で、でもプロデューサーがいるんですから当たり前です」
P「それだ」
雪歩「は、え? す、すみません」
P「自分の夢の中でも俺の好みを優先させてる」
雪歩「え、で、でも、プロデューサーに喜んでもらえたほうが」
P「ごめん」
雪歩「えっ」
P「あのわんぱくなじゃじゃ馬たちの中で
素直に言うことを聞いてくれる雪歩に甘えすぎた。
あるいは無理を押しつけた」
雪歩「そんな、謝ることなんて……」
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:23:06.12 ID:
pZ0kk8uso
P「雪歩のイメージカラーは白。清楚で健気、真摯でおとなしく儚げな美少女だ」
P「男はみんな本能的に、君を自分の色に染めたいと思う。
身も蓋もない言い方だけど、そういう魅力もあるんだから仕方ない」
雪歩「は、はずかしい、です」
少女は首まで朱を浮かべ、男はそっと目をそらしました。
P「男が苦手という厄介な性格も純粋さを育てのに役だったんだろう。
だが異物が現れた」
雪歩「異物……?」
P「俺だ。口で言われても信じられなかっただろうけど
こうして夢の中を歩けばわかる」
雪歩「プロデューサーはい、異物、なんかじゃ……」
P「屈託なく楽しく笑っていると思い込んでいた。
でも、やっぱり俺を恐れていたんだね。
ごく自然と、夢の中まで俺の好みにあつらえようとするほど」
P「でもね、俺の色が混じった雪歩なんて誰も望んでいない。
だから、失望した男たちは次の仕事を寄越さなくなった。
もちろん読めなかった俺が悪い。
君だけは個性を大切に受け入れて、
技術的なところだけを指摘するべきだった」
言ってから男は部屋の中を見回しました。
男の目には、画一的な壁のクリーム色がより鮮明になったように見えました。
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:24:15.04 ID:
pZ0kk8uso
雪歩「怖がってなんか……」
P「なに?」
雪歩「怖くなんかないです」
P「違うよ。君は俺を恐れるあまり俺に従うことを選んだ。それだけだ」
雪歩「す、好きな……」
P「うん?」
雪歩「好きな人の好みに合わせたいのが、そんなに、いけない、ことですか」
男は何もいわず、握った拳で三度自分の額を叩きました。
雪歩「お母さん、若いころミニスカートはいてました。
結婚してからいつも和服です。
でもお母さん、いつも幸せです」
P「ばかかお前は」
少女が目を見開くと、こらえていたしずくが手の甲に落ちました。
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:25:09.07 ID:
pZ0kk8uso
P「ばかだお前は。それは幼稚園児のかかるはしかだよ。
初めて会った怖くない男を惜しんでいるだけだ」
雪歩「そ、そんなこと」
P「ああ、そんなことはどうでもいい。
問題なのは雪歩がアイドルだってことだ」
雪歩「そんなの関係」
P「ないわけないよ。アイドルは普通の人間じゃない。
世の中を照らすいきものなんだ。
出会った人を幸せにするために今の雪歩はいるんだ。
女の子たちは雪歩に憧れて少しだけおしとやかになって
男の子たちは雪歩を見て少しだけ隣りの女の子に優しくなる。
雪歩のお陰で世界はほんの少しだけ優しい場所になる。
もうそういう存在になってるんだ」
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:26:16.47 ID:
pZ0kk8uso
雪歩「そんな、私はただ性格を変えたかっただけで」
P「本人の意志は関係ない。能力が人生を決める。
そういう人間もいるんだよ。そして君はそうなった」
雪歩「でも」
P「なんだ」
雪歩「でも、私は、みんなよりもプロデューサー1人がいいです……」
少女は手の甲にしずくを落とすのに忙しかったから、
男が一瞬手を伸ばしかけたことには気づきませんでした。
P「……阿呆が」
雪歩「……阿呆でもいいですぅ」
P「阿呆が」
雪歩「……阿呆ですぅ」
P「阿呆」
雪歩「……」
P「わかった」
雪歩「えっ?」
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:26:51.31 ID:
pZ0kk8uso
P「選んでいい」
雪歩「えら、ぶ?」
P「アイドルを続けるか、辞めるか選んでいい。
辞める方を選んだなら、俺のこれからの人生をあげる」
雪歩「それって」
P「俺は宝物を失うんだよ。
せめて雪歩を手に入れないと割に合わない」
雪歩「プロデューサー……」
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:28:10.34 ID:
pZ0kk8uso
P「俺はこれから目をつぶる。
目をつぶって10数える。その間にこの部屋を整えて」
P「アイドルを続けるなら、雪歩の好みの茶室に。
ボウルもコーヒーも捨ててしまえ。
そんなものは雪歩のもてなしにはいらない」
P「俺と生きていくならこのままだ。――10」
雪歩「は、はい」
P「なあ雪歩。
初めてのライブ、楽しかったよな。客の顔が見える小さなハコで
最前列のOL2人が即売CD持って
目をキラキラさせてサインをねだってくれた。
――8」
雪歩「はい……」
23 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:29:15.51 ID:
pZ0kk8uso
P「盲導犬のレポートはミスキャストで悪かったと思ってる。
でもあれからしばらく『足の指がグーになって動けません』が
女の子たちの間で流行ったんだって。
――6」
雪歩「はい……ぐすっ」
P「前回の集合ライブのさ、あのウィンクのプロマイドは
未だに友だちに頼まれるレアものだ。
――4」
雪歩「プ、プロデューサー、私……」
P「うん?」
雪歩「10じゃなくて、もう少し、もう少し考えていいですか……?」
P「ああ。いくらでも待ってあげる。どうせ邯鄲の夢だ」
雪歩「ぐすっ、ごめんなさい……。
決めますから。プロデューサーを選びますから。
いいって言うまで目を閉じていてください……」
室内がぐにゃりとうねりましたが、
目を閉じていたから、きっと気づかなかったことでしょう。
ただ、何か柔らかいものが唇をなぞったような気がしました。
24 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:29:50.93 ID:
pZ0kk8uso
P「ん、んん」
貴音「お目覚めですか」
そばには2人。
うつくしい髪の女と、机につっぷしているのは
部屋の中で向かい合った少女でした。
P「あ、うん、貴音か。覚えているか?」
貴音「あなた様も?」
P「不思議こともあるもんだな」
貴音「左様ですね。それで、雪歩は?」
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:30:32.83 ID:
pZ0kk8uso
P「わからない。返事は聞きそびれたまま目が醒めて」
その言葉を追いかけるように、少女が小さな声を上げました。
雪歩「ん、四条さん……? あ! プ、プロデューサー! きゃあ!」
慌てて寝起きの顔を隠した少女を眺めてから、男女は視線を交わしました。
P「雪歩、覚えているか?」
雪歩「え? な、今日のステージですか?」
P「……」
貴音「……」
P「ああ。セットリスト、居眠りで落ちてない? MCは?」
雪歩「はい! ばっちりですぅ!
あ、でも、もう一度おさらいしてきます!」
顔を隠しながら小走りに逃げ出した少女を見送ってから、
男に視線を戻した女は小さく首をかしげました。
男は仏頂面をしていました。
26 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:31:24.29 ID:
pZ0kk8uso
貴音「あなた様? 何かあったのですか?」
P「ん? いや。どうもかわいい嫁を逃したようだ。
今更になって、間違ったかなとね」
貴音「まあ……でも」
P「うん?」
貴音「それにしては、嬉しそうで」
P「まあね」
貴音「とても残念そうで」
P「まあね」
貴音「ふふっ」
女は口に手を当てました。
男は苦笑いをうかべました。
このお話も、夢のように唐突に幕とさせていただきます。
<おしまい>
27 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/06/12(火) 11:45:13.15 ID:
pZ0kk8uso
読んでくださった皆様、ありがとうございました。
普段と違う文体にを挑戦してみました。
ご意見ご指摘等あれば、ありがたく拝聴いたします。
28 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2012/06/12(火) 11:46:48.44 ID:gmR+HiAZo
不思議な話だった
乙
SS速報VIPに投稿されたスレッドの紹介です
元スレ:
P「つまり、夢の中か」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1339466415/
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