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1 :
◆kiHkJAZmtqg7 2016/10/13(木) 22:22:31.58 ID:
mzegZ2Br0
このssは以下の要素を含みます
・地の文
・ほどほどにシリアス
・デレステコミュに触れた内容
以上、別段問題ないという方は是非ともお楽しみください
2 :
◆kiHkJAZmtqg7 2016/10/13(木) 22:25:24.24 ID:
mzegZ2Br0
――たぶん私は、神様に祈ってはいけないんだと思います。
それは何ヶ月か前より景色が少し寂しくなって、時折吹く風が涼しくも肌寒くも感じられる、そんな季節のこと。
前の事務所から移籍して少し経ち、新しい事務所での最初のお仕事が近づいていた私の中にあるのは、どうしようもない不安だった。
いくつもの事務所にお世話になってきて、その度に初仕事を越えてきたけど、いつだってそれは消えてくれない。
もう既に、何度も移籍を重ねてきた。
そんなの普通じゃない、なんて当然なこと、今更思い返すことじゃないのに。
頭に浮かんでしまう。たくさんのアクシデント、不幸な巡り合わせ、そんな理不尽に対して怒る人、悲しむ人。
私はどうしようもなく、そういう不幸を引き寄せてしまうらしかった。
怖かった。これ以上は後がないような気がして、それなのにステージが台無しになるような不幸が訪れてしまうんじゃないかと思うと。
怖くて、怖くて。だからどんな些細な願掛けでも、それに縋りたかった。
それで私は神様にお祈りなんてしている。作法なんて知らないけど、ただただ必死に。
事務所の寮の近くにある教会に通い始めて、多分1週間くらいは経っていると思う。
何日か通っていると、教会というのは余り人が多く訪れる場所じゃなくて、まして何日も続けて来ている人は私以外に見当たらないことがわかった。
だから、不思議に思われたのかもしれない。
「こんにちは。何か、深刻なお悩みがあるのですか?」
「えっ……?」
言葉をかけてくれた人はまさしく修道女、シスターさんと呼ぶのにふさわしい女性だった。
日本人離れした色素の薄い金髪に、慈愛に満ちた優しい笑顔。
見ているだけで心が安らぐような、清らかできれいな人だ、と。その容姿と立ち振る舞いだけで、そんな風に感じた。
「……すみません、どこか変でしたか?あの、お祈りのしかたとか、よく分からなくて……」
「いえ、そのようなことはありません。ただ、ここ最近よくいらっしゃるようでしたから」
やっぱり目立っていたらしかった。
私が有名なアイドルなら、こんなことできなかったんだろうな、と。そんなことを考えてしまって、ちょっと気落ちする。完全な自爆だった。
「あの……差し支えなければ、お話を聞かせていただけませんか?」
「え、でも……ぜんぜん面白い話なんかじゃ、ないです」
「いいんですよ。話すだけでも気が楽になる、ということはよくあります。そうしてあなたが抱えているものが少しでも軽くなるのなら、それは私たちにとっても幸せですわ」
そう言って、シスターさんは私の隣に座る。
聞いてくれるという姿勢がちょっと嬉しくて、何から話したものかと言葉を探していく。
……うん、唐突な出だしになるけど、でも多分この言葉からが一番いい。
「私、アイドルなんです。駆け出しの」
「まあ、どうりで……」
「……?」
シスターさんはほんの一瞬だけ目を見開くと、すぐにその笑みを深める。
何か得心したらしい彼女の様子に、私の方が首をかしげてしまった。
「とても可憐で、華があると感じたものですから。アイドルであるなら、納得です」
「ぅ、あ、ありがとうございます。話……続けますね。お仕事が貰えて、本番ももうすぐなんです。でも……」
普段なら不安なんて、考えても口に出しても重くのしかかる一方だったのに、どうしてだろう?
この人の前だと、話した分だけ楽になるような気がした。
不幸を引き寄せるような体質、仕事への不安、アイドルへの憧れ。
つい色んなことを話してしまう。だって、つながりなんてない話題のどれもを優しい笑顔で受け止めるように聞いてくれるんだ。
そんな風に話を聞いてもらう経験なんて、ほとんどなかった。