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工藤忍「ずるい女」

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3 : ◆YenxjkWItQ 2016/04/02(土) 21:41:09.44 ID:3mmaK4JfO
ポツポツポツ…

ザーザー…

ハックション!

アタシの前を歩いていたサラリーマン風のおじさんがちらりとこちらを振り返る。

うう、恥ずかしい。

アタシは慌てて近くのビルの白いひさしへ飛び込んだ。

忍「あー間に合わなかったか…」

出かけた時は青い空も見えていたのに今は一面真っ暗になって激しい雨が降っている。
暖かくなってきたのはいいけど、このところの天気が安定しない。
変わりやすいのは女心と春の空、だったけ?
(男心?秋の空?まあどっちでもいいや)

アタシがアイドルになりたいって気持ちは地元に居た頃からずっと変わらないんだけど、
東京の天気に関してはことわざが正しいみたいだね。




工藤忍「上京物語 そのよん」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431861860/


2 : ◆YenxjkWItQ 2015/05/17(日) 20:27:09.34 ID:AL8+LghoO
♪ピンポーン

「工藤さんお届けものです」

忍「はーい」


レッスンもバイトも休みのある日
アパートに居たアタシに荷物が届いた。

忍「うわー、こんなにたくさん」

実家から送られてきた箱を開けると
もみ殻の中にリンゴがいっぱいに詰まっていた。

箱の中から甘く懐かしい香りが立ち込める。

地元に居た時は飽きるくらい食べていたけど
スーパーとかで買うと果物は高いんだよね。

忍「しかも二箱もあるなんて、アタシ一人じゃ食べきれないね」

どうしようかな、事務所におすそ分けしてもいいけど
これを持ったまま電車乗るのはちょっと大変だよね。

忍「まずは近いところから…」

カンカンカン…

アタシはリンゴを紙袋に入れるとアパートの階段を下りていく。




工藤忍「上京物語 そのさん」

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3 : ◆YenxjkWItQ 2015/05/09(土) 13:00:49.73 ID:KhJbyX4LO
トレーナー「ワン、エン、ツー、エン、スリー、エン、フォー、エン、…」


前、後ろ、ターンして…

トレーナー「ほら腕が遅れているぞ」

忍「ハイ!」


アイドル事務所に正式な所属となったアタシは初めてのダンスレッスンを受けていた。

ダンス自体は学校の授業でも選択していたし、
友達と踊ったこともあるけれどやはりプロのレッスンはかなり厳しい。

トレーナー「よし、今日はここまで。また来週続きやるからな」

忍「ありがとうございました」

息を切らしながらお礼を言う。

基本的なステップはアタシも踏めるんだけど
先生はリズムへの合わせ方や
止まったときの姿勢など細かい点をチェックしてくれる。

P「どうだ忍、調子は?」

忍「あ、プロデューサーさん来てくれたんだ」

P「まあ近くまで寄ったついでにな」

忍「この後レッスン付き合ってもらってもいい?」

忍「時間までスタジオ使っていいって言うから自主練しようと思うんだ」

P「それはいいけど、その前に少し休憩しようか」

プロデューサーさんはスポーツドリンクのペットボトルをアタシに渡す。

P「少し話もあるしな」




工藤忍「上京物語 そのに」

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2 : ◆YenxjkWItQ 2015/04/18(土) 20:07:59.25 ID:8cOItYLGO
忍「いただきまーす」


焼鮭、卵焼き、納豆、ひじきの煮つけ、味付けのりに漬物。

東京に出てきた初めての夜を穂乃香ちゃんの部屋に
泊めてもらったアタシは寮で朝ご飯をご馳走になっていた。

油揚げを噛みしめると染み込んだ出汁が中からじわっと溢れ出てくる。

穂乃香「ご飯食べ終わったら一緒に事務所へ行きましょうね」


忍「うん、ありがとう。穂乃香ちゃんは今日はどうするの?」

穂乃香「私は、レッスンに行ってその後新幹線で家に帰ります」

忍「あれ?寮には戻ってこないんだ?」

穂乃香「はい、今は週末だけ東京に来てレッスンを受けていますので」

うーん、そうか。穂乃香ちゃんとは会えなくなってしまうのか…

穂乃香「あ、でも次の週末にはまたこちらへ来ますから」

来週かあ、明日の事さえ分からないアタシには一週間は長すぎるよ。

湯気の立っているお椀に箸をつける。
実家よりも淡くまろやかな味噌の風味がワカメと一緒に喉を通り過ぎる。

穂乃香「ご馳走様です」

忍「あれ、穂乃香ちゃん。もう終りなの?」

穂乃香「ええ、あんまり食べないんですよ」

そう言えばご飯も少なめによそっていたっけ。
穂乃香ちゃんの皿に鮭が半分と卵焼きが手つかずで残っている。

穂乃香「あの、よろしかったらどうぞ」

忍「え、いいの?」

穂乃香「ええ、どうせいつも残してしまいますし。ご飯もお代わりしましょうか」

穂乃香ちゃんはアタシが差し出したお茶碗を受け取ると電子ジャーからご飯をよそってきてくれる。

ふと彼女の方を見ると服の上から分かるくらいにウエストが細い。

むむ、彼女のスタイルの秘訣はこんなところにもあったのか。

穂乃香「はい、どうぞ」

穂乃香ちゃんからお代わりを受け取る。
少しだけ躊躇ったが次の瞬間アタシの橋は穂乃香ちゃんの皿から鮭を摘まみあげていた。

まあ残したらもったいないしね。




工藤忍「上京物語」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428411771/

2 : ◆YenxjkWItQ 2015/04/07(火) 22:08:35.90 ID:HuuhBpd+O
プシュー。

夜行列車のドアが開くのを待ちかねていたアタシは荷物を抱えてホームに降り立った。

「ここが東京かぁ…、ううやっぱり外は冷えるね」

出発したとこみたいに雪は積もって無いけれどまだ太陽の顔も見えない冬の朝は寒い。
短く切りそろえた髪に冷気が当たるのを感じながらアタシ工藤忍は人の列について改札へと向かう。

アタシは小さい頃からずっとアイドルに憧れていた。
子供の頃にはこの夢を話しても親や友達も笑って応援してくれていた。

でも、成長するにつれてアタシが夢を語り出すと周りの空気が冷めていくのを感じた。

アイドルなんかになれるわけが無い
いつまでも子供みたいな夢を持つな

遠まわしにこんな事を言われているのに気付いた頃からアタシはあまり夢を人に話さなくなった。
その代わり夢を現実に変える為の努力を始めるようにした。

窓辺にラジオを置いて必死に東京からの電波をキャッチしたり、
合唱部の友達に頼んで発声練習に付き合ってもらったり
体力をつけるために朝早くから近所を走ったりした。

アタシが努力をしている事を知っている友人でさえ誰ひとりアイドルになりたいという夢に賛成してはくれなかった。

だからアタシは行動に出たのだ。

三連休の初日、友達の家に泊まると嘘をついてそのまま駅に向かい
あらかじめ切符を買ってあった夜行列車に乗り込んで青森から東京へ向かった。


アリバイ作りに協力してくれた友人は私が単に東京に遊びに行きたいのだと早合点していた。
仲のいい従姉妹には事情を説明して、いざという時には親へ説明してくれるように頼んであるから
行方不明だとは思われることはないだろう。


故郷を離れ一人きりでアタシは今日からアイドルへの第一歩を踏み出すべく東京に降り立ったのだった。





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