1 :
◆77.oQo7m9oqt 2017/10/29(日)20:00:01 ID:
imV
独自設定あり。
よろしくお願いします。
2 :
◆77.oQo7m9oqt 2017/10/29(日)20:02:03 ID:
imV
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朝ぼらけの中にニワトリが鳴く古き良きステレオタイプっぷりである。
きれいに刈られた牧草地のはるか先、遠い山を焼く真っ赤な朝日に目を細めながら、僕は集めた干し草の束に農用フォークを突き刺した。労働で熱を持った身体から出る吐息は寒気に触れて白いモヤになる。
朝焼けなんてものを見たのはいったいいつぶりだ。今は朝の五時半────こんな時間に起きていることがそもそもないし、発展し尽くした僕のふるさとでは背の高い人工物が天を衝くせいで太陽はある程度昇ってくれないと見えやしない。
「いいところだな」と僕は言った。
真上の空は澄んだ藍色に星が散らばり、視線を落とすにつれて青が水色に変わって橙へ、そして燃えるような赤が稜線から湧き立つ。
問答無用の美しさに圧されて、飾り気のない感嘆が口から漏れた。
「ふふっ」という穏やかな笑い声が聞こえた。
「そうでしょう?」
言って、隣に立つ及川雫は僕と同じようにフォークを干し草に刺して同じ方角に目をやった。出会ったときよりも少しだけ伸ばして肩にかかる髪を、うなじで一つにまとめている。黒い仔馬のしっぽのようなそれが冷えた風に揺られてわずかに浮く。
じんわりと照らされる横顔を横目にうかがった。ちょっと赤くなった鼻を小さくすすって、彼女は優しく微笑んでいる。
────ああまったく。僕は出そうになったため息をすんでのところで飲み込んだ。
出会ってから今まで、何度だって思った。良い子だなあと、繰り返すように。
そう思わないようになったのは、いったいいつからだったろう。もう随分遠い昔のことのように感じる。その雄大な風景も手伝って、ノスタルジックな気分を味わえそうだった。